デザイナーと戦国時代をつなぐもの「具足」(後編)



戦国武将たちが身に着けていた鎧兜を具足と呼ぶ。不足なく十分に備わっているという意味からそう呼ばれている。その具足のデザインにおける課題は、400年以上たった現代の工業デザインのものと大きくは変わりない。前編の「ブランド」と「流行」に続いて後編では「コスト」と「機能」について記載する。

【コスト】
足軽が自ら具足を得る金銭的な余裕はなく、雇い主である武将から賃借していた。武将は限られた予算でできるだけ多くの具足を用意したいため、コストを抑えることは非常に重要であった。武将自身の兜であっても一部に木や和紙を使用してコストダウンを図っていた。一方で一目見ただけでコストが高いと分かる具足は、着ているだけで名実が感じられ力強さを際立たせていた。朱の顔料を使った武田の赤備えや、西洋から輸入された鉄板が分厚く防御力の高い南蛮具足などはまさに高級品といえる。現代と同じように普及価格帯の製品はコストダウンが求められ、高級価格帯の製品は希少価値や高機能が備わっていた。

【機能】
伊達政宗の黒漆五枚胴具足は兜に美しい金色の月があしらわれている。この月は立物と呼ばれる装飾品ではあるが、月の右側を短くして刀を振りかぶったときに邪魔にならないように美しさと機能を両立させている。その他多くの兜にあしらわれている華やかな立物たちはベースに木材などを使用し強い衝撃が加わると破壊されるようになっており、頭部への攻撃を緩和する機能をもっている。また兜自体にも工夫がされており鉄製なのは最低限の鉢の部分のみでその他の華美な造形部分には和紙を活用し、大きく華やかでありながら軽く仕立てられ機動性を高める工夫などがされている。現代においても外観の美しさと機能性を両立させることは最も重要な課題の一つである。

以上、前後編で「ブランド」「流行」「コスト」「機能」と現代の工業デザインとの共通課題を記載してきたが、具足には多種多様な「素材」が使われていたり、多くの「加工技術」が活用されていたりとまだまだ共通の課題は多くある。ただ戦国武将の兜とは「敵に首をとられたとしても尊厳を保ちたい」という誇りを纏った死に装束でもあり、そのデザインに降り注がれる大きな責任だけは現代のものと同じとは言えないのかもしれない。

(Betonacox Design)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。