米国の景気後退期入りを懸念する声が増えてきてはいますが、株価は以前高値水準をキープしています。この好景気はいつまで続くのでしょうか。景気のサイクル、つまり景気循環には長期から短期にわたるものまでいくつかの種類がありますが、その中で短期の景気循環として、企業の在庫に注目した在庫循環があります。
景気が良いときはモノが売れるので企業が生産や出荷を増やしても在庫は積み上がることはありません。景気が後退してくるとモノが売れなくなるので在庫が徐々に積み上がっていき、企業は生産や出荷を減らしていくことになります。そして景気が再び回復傾向になれば在庫が足りなくなってきて、企業は再び生産や出荷を増やしていくという循環です。
図は米国の在庫と出荷の関係を表したものです。この図では縦軸に在庫の前年同月比を、横軸に出荷の前年同月比を表示しています。図中の上半分は在庫の増加、下半分は在庫の減少、右半分は出荷の増加、左半分は出荷の減少となり、右上は景気拡大期、左上は景気後退期、左下は景気停滞期、右下は景気回復期に分けることができます。さらに斜め45度の線を引くと、右上の景気拡大期と左下の景気停滞期は序盤と終盤に分けることができます。
この在庫循環図で見ると米国は2017年から2018年にかけて景気拡大を続けていたことがわかります。ただ、2019年に入り景気拡大期も終盤を迎え、公表されているデータのうち最も直近の8月には遂に出荷が前年同月割れとなり、このモデル上では景気後退期に突入していることがわかります。しかし、2015年は4月から7月の在庫がプラスとマイナスを行き来するなど、在庫循環で見ると数カ月のうちに急激に景況感が変わることがあります。これだけをもって米国が景気後退期入りしたと判断するのは早計かもしれません。ただ、少なくとも景気後退が迫っている証左の一つとは言えそうです。今後発表される9月の出荷が前年同月比でさらに悪化するかどうかは要注目かもしれません。
(eワラント証券 投資情報室長 多田 幸大)
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