米国の長期金利の低下とイールド・スプレッドの拡大


米国の長期金利が低下し、短期金利を下回ったことから、米国の景気減速懸念が金融市場の話題になっています。

米国債の残存ごとの利回りを線で結んだイールドカーブを見てみると、長期金利の指標となる米国債の残存10年物の利回りは2.4%を下回る水準にあり、直近の半年ほどで低下傾向にありますが、残存2年から7年あたりの年限では低下傾向がより顕著になっています。


イールドカーブの形状は経済動向に応じて変化します。一般的に景気拡大が期待される時期においては、長期金利が短期金利に比べて高くなり、イールドカーブが右肩上がりの形になります(スティープ化)。逆に景気の先行きが怪しくなると長期金利が低下して利回り差が縮小し、イールドカーブの傾きは緩やかになります(フラット化)。

国債の価格が上昇すると利回りは低下することから、最近の利回り低下の背景としては、景気の先行きを懸念した投資家が安全資産である国債に資金を移す動きから国債が値上がりし、結果として利回りが下がったものと考えられます。なお、短期金利が長期金利を上回り、右肩下がりのイールドカーブとなることを「逆イールド」と呼びます。

ところで、国債の利回りと企業の借入の関係を考えると、国債の利回りは企業の借入金利の指標となりますので、金利低下は借入金利の低下につながり、借り手にとって金利低下は悪いことではありません。しかし、景気が後退すると業績が悪化し、企業によっては資金繰りの悪化から借入金の返済が難しくなるので、財務状態の悪い企業の借入金利は下がるどころか上がる場合もあります。

企業は資金調達の手段の一つとして、社債を発行して投資家から資金を調達して利息をつけて返還することがあります。社債を発行する企業の信用力が高いほど買いたい投資家が集まるので利回りは低くなり、支払い能力に懸念のある企業の社債は人気がないので、そのかわり利回りは高くなるのが一般的です。

ハイ・イールド債券とは利回りの高い社債のことですが、利払いがなされないリスクがある代わりに国債に比べて利回りが高くなっています。信用力の低い企業が発行するハイ・イールド債券は、景気悪化などで資金繰りが厳しくなると利払い懸念から売られやすくなります(その分利回りは高くなります)。

図は米国のハイ・イールド債券のうち、投資非適格とされる信用格付けがCCC格付けの債券で構成される指数の利回りです。NYダウ指数と比較していますが、株価下落時には利回りが高まっていることに注目です。株価が低迷している時期は景気が悪く企業の資金繰りも悪化するのでハイ・イールド債券を欲しがる投資家は減り、利回りは高くなる傾向があります。


利回りは長期的に低下傾向にありますので、昔の水準と単純に比較すると傾向を見誤る可能性があります。そこで、CCC格付けのハイ・イールド債の利回りと米国10年国債の利回りの差、いわゆるイールド・スプレッドの推移を見てみます。


イールド・スプレッドが低いときは、投資家は信用格付けの低い企業に対しても低い利回りを要求していることになりますので、企業業績への懸念が後退しているときと言えます。

イールド・スプレッドが高いときはその逆で、投資家は信用格付けの低い企業に対して高い利回りを要求していることになりますので、企業業績に懸念があるときと言えます。

株価との関係を見ても株価が下落しているときにイールド・スプレッドが上昇していることがわかります。最近では2015年から2016年にイールド・スプレッドが上昇しておりましたが、株価は大きく下落せずに踏みとどまった形になっています。

当時を振り返ると、2015年8月に中国が突如として人民元の切り下げを行ったことで世界的な株安となり、安全資産である米国債が買われた時期でした。2016年の米国10年債の利回りは現在の水準よりも低く、1%台にあり、イールド・スプレッドが拡大しました。

2015年末には中国発の株安ショックから立ち直り、米連邦準備制度理事会(FRB)は連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の誘導目標を引き上げ、金融政策の正常化に向けて動き出しました。2016年11月にはトランプ氏が米国大統領選挙で勝利したことで、いわゆる減税策などへの期待からトランプ・ラリーという株高となり、さらに仮想通貨バブルによって半導体需要が株価を引っ張ったことなどもあるでしょう。

イールド・スプレッドは2018年前半まで低水準で推移していましたが、2018年後半からはハイ・イールド債の利回りが上昇し、米国10年国債の利回りが低下したことで、2015年から2016年以来の上昇局面に入ってきました。現在は当時と比べて様々な経済指標で2007年から2008年以来の長期的な景気調整局面の入り口に差し掛かった印象があります。米国景気が2015年から2016年のように踏みとどまれるのか注意が必要かもしれません。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。