デザインの話題「スバル360:60年前の人間中心デザイン」



車や電化製品のデザインであるプロダクトデザイン。10年ほど前は見た目の美しさだけを追求すれば良かったが、今はそうはいきません。

まず良い体験ができる機能のデザインが必要であり、その体験をより魅力的に感じさせる美しい見た目をデザインしなければなりません。そして言わずもがな良い体験は人を中心に考えなければ生まれません。HCD(人間中心デザイン)の考え方です。

さて今から60年前の1958年にすでにそのHCDを徹底していたエンジニアがいました。スバル360を開発したミスター・エンドレスこと百瀬晋六です。百瀬さんは図面を描く際、車からではなくまず人から描き始めたと言われています。そして「機械は人間にサービスするものだ」という語録も残されています。

その逸話どおりスバル360は比較的廉価だったため、車を持つ達成感を生み、大人4人が乗れたため家族の移動範囲の拡大を生み、普通車でも不良を起こす登坂路を得意げにスイスイ進む優越感を生みだしました。「てんとう虫」と言われた愛らしい丸みも、実は軽量化のために採用した薄い鉄板の強度を確保するための形なのです。

筆者も360に乗ったことがありますが、とても小さなボディにもかかわらず前席の足の置き場や後席の頭部などに十分なスペースが確保されています。60年も前に実践されていたHCD、現代の私たちも見習うことは大いにあると思います。スバル360は可動車も少なくないので、試乗できるのであれば、ぜひ60年も前の百瀬晋六のHCDを体感してみてください。

(Betonacox Design)