昨年11月10日付け CLIMATE HOME NEWS “Germany to miss climate targets ‘disastrously’: leaked government paper” では、ドイツの温暖化ガス排出削減に関する2020年目標について、石炭火力発電所と運輸部門による大量のCO2排出によって予想以上に大きく後退すると、ドイツ環境省が危惧している旨を報じている。
《原文より抜粋》
Germany’s environment ministry fears high emissions from coal-fired power plants and transport will make the country miss its 2020 climate targets by a wider margin than previously anticipated.
ドイツ政府は2007年以降、2020年目標を1990年比▲40%と公言してきた。2016年まででは、1990年比▲28%となっている。
しかし、ドイツ環境省の試算では、2020年目標は達成できず、追加措置を施さないと1990年比▲31.7〜32.5%に止まってしまう。
同省は、このくらいの未達規模だと、『ドイツの気候変動政策にとって大打撃』となり、『気候変動政策のリーダーとしてのドイツの国際的な評価への災厄』になると警告している。
Germany is headed for a clear failure to meet its 2020 climate targets, according to calculations by the country’s environment ministry. Without further action, Germany’s CO2 emissions will only be 31.7% to 32.5% below 1990 levels, an internal environment ministry paper seen by the Clean Energy Wire shows.
Given the official target of cutting emissions by 40%, the ministry warns that a failure of this magnitude would constitute a “significant blow to Germany’s climate policy”, and would amount to “a disaster for Germany’s international reputation as a climate leader”.
Every German government since 2007 has committed to reducing the country’s annual greenhouse gas emissions by 40 percent by 2020 compared to 1990 levels. In 2016, emissions were 28 percent lower than 1990.
2017.10.11 Clearn Energy Wire “Germany set to widely miss climate targets, env ministry warns”
2015年3月にドイツを訪問した際にも、「2013年で1990年比▲22.6%であるが、このまま推移すると2020年で同▲40%という目標に5〜8%分だけ不足するだろう」と、複数のドイツ政府関係者は語っていた。詳細は「再生可能エネルギー政策に関するドイツ調査報告(2015年3月21日)」を参照されたい。
再生可能エネルギーの積極的導入を始めとして、温暖化ガス排出削減に向けて国を挙げて努力してきていることは世界的にも周知の事実。
ドイツにしてみれば、2020年目標の未達は、国家の威信を傷付けることになると思うのかもしれない。しかし、世界はそれほど気にしないのではないか。野心的目標であればあるほど達成が難しいというのは、各国共通のこと。
今後の見通しとしては、次のようなことが有力視されている。
⑴ 世界全体のエネルギー消費量は、2015年から2040年までの間に28%増加。
⑵ その60%以上は、中印を含む非OECDのアジア諸国の消費増。
⑶ その間、石炭以外の全てのエネルギー資源の消費量は増加。
⑷ 伸び率で見ると、第一位は再生可能エネルギーで平均2.3%、第二位は原子力で平均1.5%。
石炭火力発電量がCO2排出増の主因になることへの危惧がドイツ環境省から出されているが、ドイツがいくら石炭消費量を減らそうが、石炭消費の大半を占める中国やインドなど非OECD諸国の石炭消費量を減らさなければ、石炭由来CO2排出量の多寡には殆ど影響はない。
ドイツ1国が2020年CO2目標を達成しないからと言って、エネルギー政策に係わるドイツの評価は下がらないだろう。むしろ、再エネ導入の世界的牽引役としての高い評価は、今後も健在であり続けると思われる。
ただ、2020年CO2目標を達成しないことを強く懸念しながらも、nonCO2電源である原子力発電を2022年までに段階的に縮小しているのは、全く解せない話。これは、温暖化対策でドイツが抱える大いなる矛盾の一つ。
COP23(国連気候変動枠組条約第23回締約国会議)が開催されているドイツ・ボンに、同国のエネルギー政策当局を訪ねて聴いたところ、2020年CO2目標の達成は見込めないが、国家目標である2022年原子力ゼロ化には変更はない、と明言していた。
この姿勢は、今も、ドイツの各方面において、全く揺るぎのないものである。
(社会保障経済研究所 代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)