米国のエネルギー政策 〜 原子力と石炭への支援を再び行う安全保障上の理由


現地時間の9月28日、米国エネルギー省(DOE ; Department of Energy)のリック・ペリー長官は、要するに、

①電力自由化の進展がもたらした低価格な天然ガスと再生可能エネルギーの増加により、
②近年、石炭火力発電所と原子力発電所の閉鎖が続発しているが、
③それによって顕在化しつつある送電網の回復力の維持など電力システム上の危機を回避するため、
④原子力発電と石炭火力発電に係る二つの支援策を提案する
と発表した。

概要は次の(1)・(2)の通り。

(1)送電網の『回復力』保全のための支援策

ペリー長官は、連邦エネルギー規制委員会(FERC : Federal Energy Regulatory Commission)に対して、送電網の回復力への脅威に対処するため直ちに行動するよう指示した。

原文より抜粋》
U.S. Secretary of Energy Rick Perry formally proposed that the Federal Energy Regulatory Commission (FERC) take swift action to address threats to U.S. electrical grid resiliency.

上記の趣旨を具体化したものは、ペリー長官からFERCへの文書(Secretary Rick Perry's Letter to the Federal Energy Regulatory Commission)に記されており、その構成は次のようなもの。

原文より抜粋》
① The Resiliency of the Electric Drid --- and Our National Security --- is In Jeopardy
② There Have Been Significant Retirements of Traditional Baseload Generation
③ The 2014 Polar Vortex Exposed Problems With the Resiliency of The Electric Grid
④ Regulated Wholesale Power Market Are Not Adequately Pricing Resiliency Attributes of Baseload Power
⑤ NERC Warns That Premature Retirements Of Fuel-Secure Generation Threaten the Reliability and Resiliency of the Bulk Power System
⑥ The DOE Staff Report Made Clear the Challenges to the Grid and That Resiliency Must Be Addressed
⑦ FERC is Aware Of the Problems and Must Take Action
⑧ Proposed Rule To Protect the Resiliency Of the Electric Grid
⑨ Conclusion

電力自由化を進めてきた米国では、FERCが中心となって、独立系統運用者(ISO ; Independent System Operator)や地域送電機関(RTO ; Regional Transmission Organization)の卸電力市場への新規参入を促進してきた。

その結果、様々な災害やトラブルで燃料供給が途絶えた時でも発電が可能な伝統的ベースロード電源の閉鎖が最近、次のように急速に進んできている。

2000〜09年では、主に天然ガス火力発電所が閉鎖。
2010〜15年では、閉鎖発電所全体の52%超に当たる3700万kWが石炭火力発電所。
2016〜20年では、閉鎖済み及び閉鎖見込みの3440万kWのうち、49%が石炭火力発電所、30%が天然ガス火力発電所、15%が原子力発電所。  
2002〜16年では、466.6万kWの原子炉が閉鎖済み。  
2016年以降には、8基(716.7万kW;米国の原子力発電設備容量の7.2%、全発電設備容量の0.6%)が閉鎖見込みであるが、ここには州政府の措置で早期閉鎖を免れた7基は含まれていない。

北米電力信頼度協会(NERC ; The North American Electric Reliability Coporation)の見解にもあるように、北米の電力システムでは、天然ガス・風力・太陽光が成長する反面、化石燃料・原子力発電所が閉鎖していくという変化が急速に起こりつつある。

これは、連邦政府・州政府・自治体による政策、天然ガスの低価格化、電力市場の競争原理などによって惹起。電源構成の変化は、基幹電力系統(BPS ; Bulk Power System)の運用特性にも大きな変化をもたらした。送電網の信頼性を維持し、回復力を保証していくためには、BPSの運用特性の変化をよく理解しながら適切に管理していかなければならない。

FERCも、ISOも、RTOも、送電網の信頼性や回復力への脅威を取り除くという課題を解決するのための取組みを、今はまだ十分には行っていない。

だが、送電網の回復力を維持するのに必要な燃料貯蔵型ベースロード電源、即ち石炭火力発電所と原子力発電所がこれ以上失われることは、阻止されなければならない。

石炭火力発電と原子力発電は、稼働率が高く、発電所内に燃料を貯蔵できるという付加価値があり、燃料供給が途絶えても、何ヶ月も稼働し続けることができるものなのだ。

そこで、送電網の信頼性と回復力の維持に資する原子力発電所と石炭火力発電所に対して、十分な対価を与える方向で市場改革を進めるための新ルールの制定を求めるものである。

(2)新設原子炉への融資保証

ペリー長官は、米国で30年ぶりの新設原子炉となるアルビン・W・ヴォーグル原子力発電所3・4号機(110万kW×2基;ジョージア州)の建設を支援するため、既に措置されている83億ドルの融資保証に加えて、追加的に最大37億ドルの融資保証措置を提案した。

原文より抜粋》
To further support the construction of two advanced nuclear reactors at the Alvin W. Vogtle Electric Generating Plant, U.S. Secretary of Energy Rick Perry announced today conditional commitments for up to $3.7 billion in loan guarantees to Vogtle owners: $1.67 billion to Georgia Power Company (GPC), $1.6 billion to Oglethorpe Power Corporation (OPC), and $415 million to three subsidiaries of Municipal Electric Authority of Georgia (MEAG Power). The Department has already guaranteed $8.3 billion in loans to GPC, OPC, and MEAG Power subsidiaries to support construction of Vogtle Units 3 and 4.

そして、「米国の原子力の将来は明るく、原子力技術革新の面での米国のリーダーシップ拡大を期待している。ヴォーグルのような先進的な原子力プロジェクトは、高い信頼性と強い回復力のある送電網を維持するとともに、経済成長を促進し、エネルギー安全保障と国家安全保障を強化する重要なエネルギーインフラプロジェクトの一つである」と語った。

“I believe the future of nuclear energy in the United States is bright and look forward to expanding American leadership in innovative nuclear technologies,” said Secretary Perry. “Advanced nuclear energy projects like Vogtle are the kind of important energy infrastructure projects that support a reliable and resilient grid, promote economic growth, and strengthen our energy and national security."

今回のヴォーグル計画は、米国で30年ぶりに原子炉を新設する話。ウェスティングハウス社製のAP1000という110万kWの新型原子炉が2基で、この革新的な技術が導入されるのは米国では初。稼働すれば、毎年170億kWh以上のクリーン電力を供給することが期待され、毎年約1000万トンのCO2排出量を削減しながら、160万世帯以上の家庭への安定供給を可能となる。

The Vogtle project is the first new nuclear power plant to be licensed and begin construction in the United States in more than three decades. The two new 1,100 megawatt Westinghouse AP1000® nuclear reactors at Vogtle represent the first U.S. deployment of this innovative technology. Once online, these new nuclear reactors are expected to provide more than 17 million megawatt-hours of clean electricity annually. This is enough reliable electricity to power more than 1.6 million American homes while avoiding nearly 10 million metric tons of carbon dioxide emissions annually.

以上のように、石油と天然ガスで生産量世界一になった米国(別のブログ記事を参照)でさえ、原子力と石炭を再び推進していくことで、自国の安全保障の強化や、エネルギー供給信頼度の向上を目指している。

自国の領土領海内で豊富な化石燃料資源を獲得することのできない日本は、米国のようなエネルギー大国の政治的・政策的な姿勢を再び学ぶ必要がある。即ち、エネルギー安全保障の水準を極力高めるということ。それは、近年の日本を取り巻く国際情勢を考えれば、すぐわかること。

2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故を契機とした“脱原子力”や、世界的なCO2排出量削減に向けた動きの中での“脱石炭”に関する政治的動きもあって、日本では原子力と石炭への風当たりがまだ強く冷たい。

しかし、エネルギー極貧国の日本としては、純国産の再生可能エネルギーが大量・低廉・安定的に供給できる時代が来るまでは、安全・環境面に配慮しながら原子力・石炭の活用を続けていくしかない。

日本のエネルギー安全保障の根幹は、石油と天然ガスの輸入依存度をなるべく下げることであり、当面それは原子力と石炭の利用を促進することでしか達せられない。再エネはまだまだ、化石燃料や核燃料の代替にはなり得ないのだ。

(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa