ドイツ総選挙の総括とECBの量的緩和縮小の可能性



9月24日に行われたドイツ連邦議会選挙の結果、メルケル氏のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第一党となり、メルケル氏は勝利宣言を行いました。しかし、連立を組んでいた社会民主党(SPD)が議席を減らし、さらにSPDはCDU・CSUと連立を組まない方針を発表しました。

CDU・CSUは単独過半数に届かないため連立相手を探すことになりますが、第三党に躍進したのは極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)であり、AfDとの連立はありえないと考えられますので、中道右派の自由民主党(FDP)と環境政党の緑の党と連立を組むものと見られています。

メルケル氏にとってはFDPと緑の党と連立を組むことが最優先課題となりますが、FDPはかねてよりEUの統合推進について否定的な立場であり、簡単なことではなさそうです。しかしながら、FDPと緑の党は過去に政権与党にいたこともあるので、最近では与党入りをするためか態度を軟化させる動きを見せています。

今回の選挙でAfDが躍進したことは、ドイツ国内における不満や不安を反映したものと言えます。ドイツの主たる産業の1つは自動車産業ですが、ドイツ車の生産拠点が中国に移り、しかも競争力を持ってきたガソリン車が電気自動車に取って代わろうとしています。難民問題だけなく、自動車産業の構造転換による職への不安がAfDを躍進させたと考えられます。この点はメルケル氏も無視できないものと思われます。

また、連立を組むと見込まれるFDPはEUと距離を置く政党であり、FDPへの配慮からメルケル氏が内向きになる可能性もあり、米国でトランプ氏が選出されたように、反グローバリズムや保護主義の潮流がドイツに起こる可能性は否定できません。

さて、ドイツの選挙結果を受けてECBによる量的緩和縮小が決定されるかが市場の注目点になりますが、ドイツ内部の課題はあるものの、メルケル氏の続投には変わりなく、ドイツ発の政治的なリスクは表面的には低下したと考えられます。

FRBが10月から資産縮小を9月のFOMCで決定し、9月のドイツ連邦議会選挙で与党が勝利したことから10月26日のECB理事会で量的緩和が縮小される可能性はかなり高いと考えられます。

なお、フランスでも9月24日に元老院(上院議会)選挙がありましたが、最大野党の共和党が勝利し、マクロン大統領の政党、共和国前進は伸び悩む結果となりました。しかし、マクロン大統領の退陣につながるものではないためECBの判断に影響はないものと考えられます。

スペインのカタルーニャ独立問題はありますが、EUの中枢2カ国で少なくとも表面的には政治的なリスクが後退したことに加え、先日、イエレンFRB議長が物価見通しが弱くても利上げの継続が必要であることを示した点はECBの背中を押すことになると考えられます。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

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