電力会社の切り替え:“1割を超えた”と役所は発表したが・・・??


8月22日の電力・ガス取引監視等委員会の発表では、電力会社の切り替え(スイッチング)について、今年5月時点で一般家庭向け(低圧)のスイッチング率が10%を超えたとのこと。

<小売全面自由化以降のスイッチング件数の推移>

そのスイッチング件数の内訳は、みなし小売電気事業者(大手電力10社の小売部門のこと)から新電力へのスイッチング件数が約353万件(約5.6%)、みなし小売電気事業者内のスイッチング件数が約281万件(約4.5%)。

みなし小売電気事業者は大手電力会社そのものなので、新規参入者ではない。新電力は新規参入者である。新電力へ切り替えた低圧需要家(一般家庭の消費者)は、この時点では約5.6%で、全体の約半分に過ぎない。

昨年4月以降、電力小売市場における新電力のシェアは漸増しており、今年4月時点での販売電力量ベースの新電力シェアは約9.2%となっている。電圧別には、特別高圧・高圧分野に占める新電力シェアは約12.1%で、低圧分野に占める新電力シェアは約 4.6%となっている。


今年4月時点での新電力の総販売電力量(低圧)に占める新電力各社のシェアは次の通り。大手都市ガスや大手石油会社が上位を占めており、それ以下ではエネルギー事業者や大企業系列会社が多いことがわかる。


経産省が2016年4月1日の電力小売全面自由化施行より約半年前の2015年11月18日に発表した資料では、「8割の人は、少なくとも切り替えの検討はする意向」、「現時点で切り替えを前向きに捉えている(「すぐにでも変更したい」「変更することを前提に検討したい」)人に限っても、25%弱存在する」とのアンケート調査結果が掲載されている。

上述のように、現実はまだまだその域には達していない。予想通りではあるのだが、桁違いに低いのはかなり痛い。図らずも、こうしたアンケート調査には、調査主体の期待感が込もり過ぎる傾向があることを示した格好。

因みに、電力自由化から一定程度時間の経過した欧州では、年間切替え率について、スペインやイギリスなど9カ国で10%を超える一方で、フランスやデンマークなど5%未満の国も同程度存在している。


この年間切替え率は、電力自由化の進捗状況を表す指標の一つとなる。その進捗状況が当初見込みよりも芳しくないと判断された場合には、その責任は大手電力10社に帰せられるだろう。最悪、大手電力10社は、送電部門の所有分離まで半ば強引に課せられてしまう可能性がある。

だが、今回の電力自由化が『低廉かつ安定な電力供給システムの水準』を維持・向上させるものかどうかは、実は甚だ覚束ない。少なくとも欧米の先行例から見ると、むしろ失策であった。

欧米諸国の電気料金水準の動向を見れば一目瞭然。実際、低所得層を中心とした大多数の家庭用電気料金は下がっていないし、下がりようもないことは、今回の自由化以前からわかっていたこと。

特に日本では、原子力発電が再開されていないことに伴うコスト増が最大要因。今回の電力自由化については、電力消費量が比較的多い消費者などは別だが、国全体として見た場合には、これまで以上のコスト低減に寄与していることは、いずれのデータからも窺うことはできない。

原子力発電については、既設原子力発電所に係る新規制基準適合に相当の猶予期間を置き、今すぐにそれらの高稼働率稼働を容認する政治決断をすることで、『原子力正常化』を宣言すべきだ。(政権支持率は一瞬下がっても、すぐに回復するだろう。)

それにより、電力卸売・小売市場の両方における低廉安定供給体制が回復されるだけでなく、その豊富な収益により原子力安全対策や再生可能エネルギー振興のための財源を確保することもできる。日本では当面、原子力と再エネを両輪としたエネルギー需給体制を構築していく必要がある。

(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa