ベルギーの水の都ゲント Gent in Belgium



ブリュッセルから列車で約30分の場所に位置するゲントは、東フランダース州の州都にして、12世紀より栄えたベルギー有数の古都として知られます。

中世には街を流れる2つの川を利用して羊毛産業での交易が行われ、ゲントは莫大な富を築きました。その頃の栄光に輝く歴史的建造物は街の各所に遺され、当時の繁栄のすごさをいぶし銀のような輝きの中で誇示します。

“ベルギーの水の都と呼ばれたゲント”。街にはその頃のままに幾重にも重なるようにして開けた水路が残されています。そして、運河沿いには繊維産業で活気を見せた中世の栄華の頃を彷彿とさせる歴史的建造物が保存され、運河の水面には当時を彷彿させるかのように華やかなりし頃の面影が映し出されます。

同じ運河の街ブルージュはあるときには華やかに、あるときには眩しいほどに光り輝く街並みを誇りますが、この街はそれとは一味異なり、いぶし銀のように重みのある光が運河の水面を飾り、その格調高さを誇ります。また、ブルージュのように常に多くの観光客で賑わいを見せはしないけれど、観光には欠かせない遊覧船の発着所もあり、訪れた旅人たちを乗せて中世の栄華の時の流れの中に案内するのです。もちろん、街の自慢は運河沿いに軒を連ねるギルドホールです。大半が12~14世紀に建造されたものですが、創建時の豪華な内装が昔のままに保存されているのも少なくありません。

そのひとつがこのグラスレイGraslei と呼ばれるレイエ河畔に並ぶギルドハウス群です。旧市街の河畔沿いに居並ぶギルドハウス(商人の家)の大半が12~15世紀に建造されたもので、その豪華さは交易港として栄えた当時の栄華を偲ばせます。各商人の家は時代により異なることにも注目が集まりますが、12世紀建造の建物は堅固なロマネスク様式、13世紀から14世紀にかけてはイタリアで発展したルネサンス様式、15世紀には優雅なゴシックからバロック様式までと多様な建築様式に彩られているのですから、注目されるのも頷けます。対岸にも中世の面影を色濃く残すギルドハウスやビール醸造所などが軒を連ねるコーンレイKorenlei が保存されています。

そのほか、街には多くの歴史的遺産が点在するゲントですが、ベルギーの中でもっともシックで憂いある表情を見せる街として、そして、中世というロマンあふれる街並みが今もなお、当時の面影の中で静かに息づく街として訪れし者たちを楽しませてくれるのです。

◾️閑話休題「ブリュッセル風ワッフルのルーツ」

ブリュッセル風ワッフルのルーツは実はゲントにあるのです。1839年、リンゴのフリッターと「ブリュッセルワッフル」を開発し、現在のオーナー&ワッフル職人イヴさんの祖先がカフェ・マックスを開店します。と言っても店を構えたのではなく、最初は露店での販売だったようです。

フルーティーでまろやかなその味は、あっという間に知れ渡り、以来、内外を問わず多くの人たちに愛されてきました。またそのレシピは今も変わらず伝統的な味を守って、今現在6代目のオーナーが創設当時のままのオリジナルのアールヌーボー様式の装飾が施された店「カフェ・マックス」を守っています。元祖ブリュッセル・ワッフル Cafe Max(住所: Goudenleeuwplein 3, 9000 Gent)。

また、ゲントは週に一度木曜日に肉を食べないことを奨励する「採食の木曜日」を提唱したフランダースで最初(2009年)の街で知られます。この日はすべての公共機関や学校などで原則的にベジタリアンメニューが呈されます。街のベジタリアンレストランも他の街に比べると多く、観光局にはベジタリアン料理を提供するレストランをリストアップしたガイドブックが用意されています。

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手したその他の資料、ウィキペディアなど参考にさせて頂いています》

(トラベルライター、作家 市川 昭子)