極左暴力集団・大衆運動と反原発 ~ 近年の「警察白書」(平成24〜28年版)での書きぶり


平成23年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故が発生して以降、反原発デモなどが盛んに報じられるようになった。

それらの中には、極左暴力集団(過激派)や大衆運動によるものもある。北海道警察HPによると、「極左暴力集団」とは、「過激派」とも称され、「社会主義、共産主義革命を目指し、平和で自由な民主主義社会を暴力で破壊、転覆しようと企てている反社会的な集団」のことを指す。

極左暴力集団・大衆運動と反原発運動の関係については、近年では、平成24~28年の警察白書において、それぞれ次のような記述がなされている。

≪平成28年版警察白書(第6章第2節「公安の維持と災害対策」第2項・第5項より抜粋)≫
ーー 暴力革命による共産主義社会の実現を目指している極左暴力集団は、平成27年中も、組織の維持・拡大をもくろみ、暴力性・党派性を隠して大衆運動や労働運動に取り組んだ。

革マル派は、安倍政権が進める諸施策を批判し、「政権打倒」を主張して、独自の抗議行動に取り組んだ。また、平和安全法制をめぐる抗議行動、反戦・反基地、反原発等を訴える集会やデモ等に参加し、革マル派の主張を掲載したビラの配布や、団体旗等の掲出により、自派の存在を誇示するとともに、同調者の獲得を図った。一方、革マル派が相当浸透しているとみられる全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)及び東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)は、同派創設時の副議長であった故松嵜明元JR東労組会長の「業績を後世に伝えるため」などとして、全8巻からなる著作集の刊行を開始した。

中核派(党中央)は、労働運動を通じて組織拡大を図る「階級的労働運動路線」を堅持し、同派が主導する国鉄動力車労働組合(動労)の傘下に労働組合を新たに3県において結成した。また、中核派(党中央)が組織する「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」(な全)は、全国各地で集会、デモ等に取り組んで同調者の獲得を図った。このほか、中核派系の全日本学生自治会総連合(全学連)等は、平和安全法制関連二法の国会審議を捉え、「国会包囲大闘争」等と称し、都内で集会、デモ等に取り組んだ。一方、19年11月に党中央と分裂した関西地方委員会(関西反中央派)は、反戦・反基地、反原発等を訴える集会やデモ等に参加し、同調者の獲得を図った。

革労協主流派は、成田闘争を重点に取り組んだ。一方、革労協反主流派は、反戦・反基地闘争に取り組み、27年4月には、米陸軍キャンプ座間に向けて飛翔弾を発射する事件を引き起こした。

(「6・15国会包囲デモ」6月、東京/出所:平成28年版警察白書)

ーー 大衆運動の動向(抜粋)
(1)平和安全法制をめぐる動向
平和安全法制をめぐり、平成27年5月中旬から国会議事堂周辺等において、断続的に抗議行 動が行われた。参議院での採決前の同年8月30日には、国会議事堂周辺等における抗議行動に約12万人(主催者発表)が参加した。

(2)反戦・反基地運動
沖縄県の普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、移設計画の撤回や工事中止等を訴え、 キャンプ・シュワブゲート前等で抗議行動が行われた。平成27年5月17日に那覇市内で開催さ れた集会には、約3万5,000人(主催者発表)が参加したほか、都内では国会議事堂周辺等に おいて抗議行動が行われた。

(3)原子力政策をめぐる動向
原子力発電所の再稼動等を捉え、毎週金曜日の首相官邸前における抗議行動を始め、全国各 地で反対集会、デモ等が行われた。とりわけ、国内全ての原子力発電所の運転が停止する中、 平成27年8月に川内原子力発電所が再稼動した際には、川内原子力発電所の正門前等で集会、 デモが行われ、同年8月9日の集会等には、約2,000人(主催者発表)が参加した。

≪平成27年版警察白書(第5章第3節「公安情勢と諸対策」第2項・第5項より抜粋)≫
ーー 暴力革命による共産主義社会の実現を目指している極左暴力集団は、平成26年中も、組織の維持・拡大をもくろみ、暴力性・党派性を隠して大衆運動や労働運動に取り組んだ。

革マル派は、同年6月、同派結成50周年を記念し、50年間の活動を取りまとめた書籍の第1巻を刊行した。また、安倍政権が進める諸施策に反対し「政権打倒」等と主張した独自の取組を行うとともに、反戦・反基地、反原発等を訴える集会やデモ等に参加し、同調者の獲得を図った。一方、革マル派が相当浸透しているとみられる全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)及び東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)は、JR東労組の組合員らによる組合脱退及び退職強要事件に関連する全ての裁判が終結した後も、引き続き、同事件を「国策弾圧」、「えん罪」と主張し続けた。

中核派(党中央)は、同年10月、同派結成50周年を記念し、50年間の活動を取りまとめた書籍の下巻を刊行した。また、労働運動を通じて組織拡大を図る「階級的労働運動路線」を堅持した。このほか、「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」(な全)は、全国各地で集会、デモ等に取り組んで同調者の獲得を図った。一方、19年11月に党中央と分裂した関西地方委員会(関西反中央派)は、反戦・反基地、反原発等を訴える集会やデモ等に参加し、同調者の獲得を図った。

革労協主流派は、成田闘争を重点に取り組んだ。一方、反主流派は、反戦・反基地闘争に取り組み、26年10月には、普天間飛行場の名護市辺野古移設工事の関連会社に向けて飛翔弾を発射する事件を引き起こした。

(極左暴力集団による「11.2全国労働者総決起集会」11月、東京/出所:平成27年版警察白書)

ーー 大衆運動の動向:原子力政策をめぐる動向
原子力発電所の再稼動等を捉え、全国各地で反対集会、デモ等が行われた。毎週金曜日の首相官邸前における抗議行動と同抗議行動に連帯する取組が各地で継続されたほか、都内では、「NO NUKESDAY」と題して、反対集会、デモ及び国会議事堂周辺での抗議行動が行われた(平成26年3月9日延べ3万2,000人、同年6月28日5,500人(いずれも主催者発表))。

≪平成26年版警察白書(第6章第3節第2項より抜粋)≫
ーー 暴力革命による共産主義社会の実現を目指している極左暴力集団は、平成25年中も、組織の維持・拡大をもくろみ、暴力性・党派性を隠して大衆運動や労働運動に取り組んだ。

革マル派は、安倍政権が進める諸施策に反対し「政権打倒」等と主張した独自の取組を行うとともに、反戦・反基地、反原発等を訴える集会やデモ等に参加し、同調者の獲得を図った。

「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」(な全)は、全国組織化に向け、首都圏を中心に各地で「な全」の結成を進めた。19年11月に党中央と分裂した関西地方委員会(関西反中央派)は、反戦・反基地、反原発を訴える集会やデモ等に積極的に参加した。革労協反主流派は、電源開発大間原子力発電所の建設や四国電力伊方発電所の再稼動に反対して現地でデモに取り組んだ。

(反原発運動に取り組む極左暴力集団/出所:平成26年版警察白書)

≪平成25年警察白書(第5章第3節第2項より抜粋)≫
ーー 革マル派は、福島第一原子力発電所事故以降の反原発運動の盛り上がりを組織拡大の好機と捉え、「原発・核開発阻止」を主張した独自の取組を行うとともに、市民団体主催の取組に介入する形態で反原発運動に取り組んだ。

中核派(党中央)は、労働運動を通じて組織拡大を図る「階級的労働運動路線」を堅持しつつ、23年8月に結成した「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」(な全)を中心に、全国で反原発運動に取り組んだ。19年11月に党中央と分裂した関西地方委員会(関西反中央派)は、市民団体等が主催する反原発、オスプレイ配備反対等に関する集会やデモ等に積極的に参加した。 革労協主流派は、大飯原子力発電所3号機及び4号機の再稼働に反対して現地でデモに取り組んだ。大飯原子力発電所3号機及び4号機の再稼働に対する反対行動の際に、警備員に発火した発煙筒を押し当てるなどした活動家を傷害罪等で逮捕するなど、極左暴力集団の活動家ら合計31人を検挙した。

(反原発運動に取り組む極左暴力集団/出所:平成25年警察白書)

≪平成24年警察白書(第5章第3節2より抜粋)≫
―― 革マル派は、既存の労働組合の執行部を批判して同調者の獲得を図ったほか、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故を捉え、「停止中原発の再稼働阻止、全原発の即時停止・廃棄」を主張した。

中核派(党中央)は、労働運動を通じて組織拡大を図る「階級的労働運動路線」を推進しつつ、反原発闘争にも力を入れ、反原発闘争の推進主体として「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」を立ち上げた。19年11月に党中央と分裂した関西地方委員会(関西反中央派)は、市民団体や他のセクトが主催する反原発、沖縄基地問題に関する集会やデモに積極的に参加した。

革労協反主流派は、宮城県で震災被災者に対する支援活動を通じて組織拡大を図った。

(極左暴力集団によるデモ/出所:平成24年警察白書)

尚、平成23年以前の近年の警察白書には、こうした記述は見当たらない。

(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa