清らかな時間を描く画家ドメニキーノ San Luigi dei Francesi in Rome



ローマのナボナ広場に隣接して建つサン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会San Luigi dei Francesiは、名前の通りフランスの守護神サン・ルイを祀るために、カトリーヌ・ド・メディチの尽力の元で、1518年に着工されましたが、1527年のローマ略奪で建設は一時中断。その後、ドメニコ・フォンターナに引き継がれ、1589年に完成しました。

カトリーヌの尽力でローマに住むフランス人のために建立された堂内はさして広くありませんが、建築費に糸目をつけなかったことで、三廊式で5つの礼拝堂を持つという豪華さ。もちろん、それらは贅を尽くしたインテリアに覆われ、中世中期、16世紀に活躍した著名な芸術家たちの作品で埋め尽くされたのです。

そのひとつがこの画像の作品です。作者は1581年10月21日にボローニャの靴屋の息子として生まれ、1641年4月に60歳の生涯を終えたドメニキーノ。彼はイタリア盛期バロックの画家として活躍した芸術家のひとりで、温和で古典的な雰囲気の中に描かれる、輝くような肌の質感や官能性を含んだ女神やニンフらの表現が秀逸で、表現力の強さは誰にも負けません。

ドメニキーノは靴屋の息子として食の街で知られるボローニャで生まれましたが、成人してからカラッチ兄弟のアカデミア・デリ・インカミナーティに入り、そこで腕を磨いた後、1601年、ローマに向かいました。

自分らしく生きるために。絵画での自分の世界を確かなものにするために。そして、多くの画家たちに混じって、自分を切磋琢磨するために。その思いでこの街に身をゆだねたドメニキーノ。その願いは彼の努力により達成され、憧れのローマに出て初めてドメニキーノの世界は花開きます。

作品のいずれもが気高く、気品あるものとなり、神の世界を清らかに謳いあげたその表現力の強さで多くの人々を感動させてゆきました。それはどこまでも清らかで、どこまでも優しく。聖なる時間を携えて常に“今”にいました。

そんな清らかな時間に身を任せたくここに立ち止った旅人は、心が洗われ、気持ちを癒されて再び旅に出てゆきました。

堂内に保存されているカラヴァッジョの作品「聖マタイの召命」「聖マタイと天使」「聖マタイの殉教」はあまりにも有名ですね。

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手したその他の資料、ウィキペディアなど参考にさせて頂いています》

(トラベルライター、作家 市川 昭子)