世界の食糧危機を救う「魚介類の陸上養殖」



陸上養殖とは、海ではなく陸上で魚介類を養殖するというものです。

魚介量の消費量は世界的に見ると増えており、過去50年間で5倍に増加しました。世界の人口が増えたことや、魚は健康に良いと認識されてきたことで、魚の消費量は増えています。そのため、海から魚をとるのは限界に近づいています。

しかし、海を利用した養殖は簡単ではありません。そこで、陸上で魚を養殖しようという動きが進んでいます。

陸上養殖には6つのメリットがあります。

まず1つ目は、外部の影響を受けないということ。海で養殖すると赤潮が発生して魚が死んでしまう、タンカーが座礁して重油が流れて死んでしまうというケースがあります。台風が来ればいけすごと流されることもあります。屋内での養殖ではこのような心配がありません。

2つ目は、安全な魚を育てられるということです。海で育っている魚はどんな餌を食べてきたか分かりませんが、陸上養殖では、水やエサを完全にコントロールできます。

3つ目は、エサの無駄がないということです。海の養殖では、食べられないエサはいけすの外に落ちて無駄になります。陸上養殖では、水槽の外から魚の様子を観察して、エサの質や量をコントロールすることができます。

4つ目は、水温やエサの調節によって、生育期間や魚肉の質をコントロールできることです。一般的に、カロリーの高いエサを与えて高めの水温で育てると、生育期間が短くなり肉付きが良くなります。

5つ目は、作業員の負担が軽いことです。機械化とシステム化が進んでおり、体力のない人でも陸上養殖の仕事をすることができます。人手不足と言われる時代に適しています。

6つ目は、どこでもビジネスができることです。海は国有地で、養殖をするには地元の漁業組合の会員になる必要があり、漁業と関係のない企業は進出しづらいです。陸上養殖では、企業がどこを養殖場にするか自由に決めることができます。

陸上養殖はイニシャルコストが高いと言われていますが、海上養殖は自然災害や人為的な災害によって大きな打撃を受けることがあります。そう考えると、一概に海上養殖がコストが低く、陸上養殖がコストが高いとは言えないと思います。

今後、技術の進展でコストが低くなれば、陸上養殖は盛んになっていくと考えられます。


(スピーカー:東洋経済新報社 編集局編集委員 田宮 寛之)