鉄道やバスの路線図は距離や位置が正確ではありません。駅と駅の距離は一定であり、方向もおおまかで、線路は長方形の用紙にキレイに収まるように縦・横・斜め45度と意図的に描かれています。この描き方は「ダイヤグラム型」と言われ、1933年にロンドン地下鉄の技術者ハリー・ベックが考案したものです。路線図を地図のように距離や位置を正確に描いてしまうと、密集地が分かりづらくなってしまい、ダイヤグラム型はその問題を解消しています。それはつまり現在でいうところのインフォグラフィクスが、すでに1933年に実践されていたということです。
さらに源流をたどると、ダイヤグラム型のように距離や位置を無視することは数学の「トポロジー(位相幾何学)」という考え方であり、1736年スイスの数学者レオンハルト・オイラーが初めて使っています。街に流れる川は途中で二つに分岐しており、一つの島と三つの地域でできている。その間には七つの橋がかけてある。「これらの橋をちょうど1回ずつ渡ることはできるか」という問題(ケーニヒスベルクの橋の問題)を解くにあたりオイラーはトポロジーの考えを活用しました。島や橋の地理図を距離や位置を無視した線図に変えることで、いわゆる「一筆書き」の問題に置き換えて「奇数の線が交わる点が三つ以上ある場合、一筆書きは不可能である」ということを導き、橋をちょうど一回ずつ渡ることはできないと示しました。
人の考えはそんなに広くはありません。上記のようにデザインの考えと数学の考えが同じところに行き着くこともあります。逆説的に捉えるとデザイナーは様々な知見をデザインに活用することができるのです。やはり、2016年1月にMITメディアラボのネリ・オックスマン教授が発表した「クリエイティビティのクレブスサイクル」が示すように、デザインはサイエンスやエンジニアリングと深く関連しながら進めていく必要がありますね。
(Betonacox Design)