英国の「ハードブレグジット」は不可避か


4月18日、英国のメイ首相は突然緊急会見を開き、総選挙を前倒しで実施する方針を示しました。翌日には英国議会の承認され、6月8日に総選挙が行われることとなりました。総選挙でブレグジット交渉について国民の信任を問い、総選挙にて与党保守党の議席を増やすことでブレグジット反対派を一掃し、交渉をしやすくするためと見られます。

この会見の直前には様々な憶測でポンド相場が急落しましたが、総選挙の一報でポンド相場は反転し急騰しました。急騰の理由として報道では総選挙がメイ首相の政権基盤の強化をもたらすという解説がなされています。昨年のブレグジットを巡る国民投票で市場はポンド安で反応したことを振り返ると、ブレグジット交渉のための総選挙実施で市場はポンド高で反応、というのは説明が付かないとも言えます。突然の会見やポンド相場の動き、欧州で相次ぐ国民投票を見るに付け、欧州情勢は「複雑怪奇なり」という印象を持った方も多いのではないでしょうか。

※画像をクリックして拡大


さて、6月8日の総選挙で与党保守党が議席を伸ばしたところで、EUとの交渉は前途多難です。

欧州委員会のマルガリティス・シナス首席報道官は、ユンケル欧州委員長がメイ首相との電話会談において6月8日の総選挙以降にブレグジットに関する協議を本格的に開始する方針を示しました。その前段階として4月29日の全EU加盟国の首相・大統領が集う特別欧州理事会にてブレグジット交渉のガイドラインを採択し、5月22日に予定されているEU加盟国の閣僚が集うEU理事会にて交渉指令が採択される予定です。

メイ首相はEUから英国への移民の移動を制限する措置を要求するとともに、EUの司法権が英国への適用除外を主張しています。さらに英国による「EU単一市場へのアクセス」を確保し、「EU単一市場へのアクセス」を失う「ハードブレグジット」の回避を目指しているものと思われます。一方でEU側は「EU単一市場へのアクセス」を認めない姿勢を示しており、交渉は難航すると思われます。

また、先のフランス大統領選挙で決選投票に進んだマクロン氏は次期フランス大統領と目されていますが、同氏はEU単一市場において人・モノ・資本・サービスの移動の自由は不可分と考えている模様で、同氏が英国の「EU単一市場へのアクセス」を認めるとは考えにくい状況です。

以上から英国の「ハードブレグジット」は避けられないかもしれません。英ポンド相場は上昇基調にありますが、ブレグジット交渉が始まると再度「ハードブレグジット」が意識されて英ポンド相場が急落する展開があるかもしれず、ポンド高相場は長く続かないかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。