『丘の上の陶器の街カルタジローネ』“陶器を飾ったサンタマリアデルモンテ階段” Scalata di Santa Maria del Monte



シシリー島カターニア州の中部に広がる陶器の街カルタジローネは、1606年、小高い山頂に広がる旧市街地と山の麓に位置する新市街地を結ぶために、約130㍍という長い階段を造りました。階段の数は142段、その高低差は何と50㍍もあるという規模の大きなものでした。当時はバロック様式が主流でしたから、階段もバロック様式で造られ、その壮麗さを自慢としていましたが、1693年に地震に遭遇。街はほぼ壊滅状態になりました。当然、階段もかなりの損傷を受けましたがそれでも崩壊には程遠く、その堅固さを見せてくれました。

階段は1844年に改修工事が施され、階段途中に照明を設置するなどして夜間の通行に支障を招かないように工夫されたのですが、それが装飾イルミネーションとなり、後にカルタジローネの幻想的で特徴的な景観となってゆきます。

そして、その100年後にあたる1954年、戦後間もない頃でしたが、老朽化した階段を全面改修することに決定。でも、単に改修するのではなく、142段のすべてを作り変えるほどの大工事となったのです。なぜならそれまでの単調でありきたりの階段ではなく、街のランドマーク的な存在となったことからカルタジローネの歴史を組み込もうという企画の元で進められたからでした。それも階段の踏み石の部分を今なお活火山として活動するシチリアの象徴“エトナ山”の溶岩で造り、垂直部分にはカルタジローネの自慢の陶器のタイルを、一段一段異なるデザインで飾ろうとしたからです。

完成までには多くの時間を費やしましたが、完成時の階段には単なる飾りタイルではなく、各階毎に当時活躍していた陶器の芸術家アントニーノ・ラゴーナによりデザインされた10世紀~20世紀に至るまでのアンティークなタイルを飾り、カルタジローネの陶器の歴史を刻んだのです。

エトナ山の火山活動で多くの死者を出した島であり、街です。ですからその悲しい歴史を祀るために街の象徴とも言える階段に溶岩を使用した住民たちの思いがここにありました。また、何度も侵略されて大きな痛手を負った陶器産業でしたが、タイル職人の巨匠たちの意地も、この階段に込められました。そして、その2つの歴史を組み込んだ階段を街のランドマークとしたのです。

夕方から夜にかけて大階段は美しくイルミネーションに輝きます。その情景は華麗さを通り越して荘厳さを漂わせ、観る者の心に深く焼きつきます。そして、訪れし者の誰もが大きな感動と共に魅了され、カルタジローネの陶器の世界に心酔してゆきます。

“カルタジローネの宝石”と呼ばれるサンタ・マリア・デル・モンテ大階段Scalata di Santa Maria del Monte。素敵です。

《註》毎年7月24日25日、8月14日と15日の4日間は、サンタ・マリア・デル・モンテ大階段のイルミネーション祭が開かれ、多くの見物客でにぎわいます。また、5月~6月上旬には大階段が花の植木で飾られる花祭りも開かれます。そして、12月1日~1月6日頃まで続くクリスマスイベントでは、大階段にシクラメンの鉢植えで流れ星の図柄が描かれ、街中の教会や展示会場等でプレゼピオの展示が行われたり、クリスマスコンサートなどが開かれます。クリスマスのイベントにも内外から多くの観光客が訪れ、カルタジローネならではのイベントを楽しみます。

もし、お時間がありましたら、その頃、是非、訪れて下さい。ロマンに包まれた幻想的な世界に魅了されますから是非。

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手したその他の資料、ウィキペディアなど参考にさせて頂いています》

(トラベルライター、作家 市川 昭子)