米国株高と円高進行は米国のインフレ加速が原因か


上昇に一服感の出てきた米国株ですが、長期的に見れば過去最高値圏にあることには変わりありません。この米国株高の要因としては米国景気に対する楽観的な見方やトランプ政権による政策期待などもあるでしょうが、インフレ進行も一因として考えられます。

図1は日米のインフレ、つまり物価の上昇率を比較したものです。この図では価格変動が大きいとされる生鮮食料品やエネルギーを含んだ総合と呼ばれる指数の前年同月比を比較しています(2017年2月までのデータ)。2015年の米国ではインフレの進行は微々たるものでしたが、2016年からインフレ傾向にありました。さらに2016年12月以降は前年同期比で2%超となっており、米国においてインフレが加速していることが分かります。一方で日本では2013円末から2015年初にかけてインフレ傾向が強まりましたが、これは日銀による量的緩和政策によるところが大きいと考えられます。しかし直近では大きな変動は見られず、2013年以前のような状況に戻っています。

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物価の上昇はモノの価格が上がることですから、物価が上昇すれば株価も上がると考えられます。そこで日米の代表的な株価指数について物価変動を除いて比較してみました。ちなみに物価変動部分を除くことを物価調整と言います。図2は2010年から2017年3月までの米国の株価指数S&P500と日本の株価指数TOPIXの比較です(2017年3月は30日までのデータ)。図1の消費者物価指数を用いてインフレ調整後の株価指数も載せています(2017年3月はデータがないためインフレ調整は行っていない)。

図2を見るとインフレ調整の影響が大きいのは米国のS&P500です。日本のTOPIXはインフレ調整後で見てもあまり変化がありません。インフレ進行によって株価が持ち上げられている効果は、日本に比べて米国の方が大きいと言えます。日本では物価の下落、いわゆるデフレの期間が長かったことが影響しています。

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ところで直近の米ドル対円相場はやや円高方向に動いていますが、これは米国でインフレが加速していることの現れかもしれません。インフレはモノの価格が上がることになりますが、見方を変えれば通貨の価値が下がることになります。長期的に見ればインフレが進む国の通貨の価値は下がり、デフレが進む国の通貨の価値は上がることになります。円安ドル高がなかなか進まないのは米国でインフレが加速していることが原因かもしれません。

なお、インフレが極端に加速すると賃金上昇が追いつかないために貧困が発生し社会不安が起こると考えられます。インフレを退治するには政策金利を引き上げたり、量的緩和政策を止めて通貨の流通量を減らすことで通貨の価値を引き上げればよいのです。

米国の政策金利は米連邦準備制度理事会(FRB)によって決められますが、直近のFRB幹部の発言などを見ると政策金利引き上げのペースを早めようとしているようですが、米ドル対円相場はなかなか円安米ドル高になっていません。利上げよりもインフレ加速の方が影響が大きいのかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。