円安による株価上昇は期待しにくい相場か


日本株市場は為替相場の影響を大きく受けることが知られています。これは日本の主力産業が輸出業であり、外貨ベースの売上高を円換算する際に円安が進めば円ベースでの売上が増額するからです。この他にも輸出競争力が出るなどの効果もあり、円安と株高が同時に起きることが多いと言えます。特に米ドルとの関係性が一番強いものと考えられます。

図1は日経平均株価と米ドル対円相場の関係を2012年から2016年まで示したものです(2016年は12月28日までのデータ)。横軸は米ドル対円相場、縦軸は日経平均株価の水準です。米ドルが高くなる、つまり円安ドル高となると日経平均株価も高値にあることが分かります。現在の米ドル対円相場が115円から120円の間なので日経平均株価もおよそ17,800円から19,000円の間となる、という関係性がありそうです。

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日経平均株価の水準を米ドル対円相場の水準で説明できるのであれば、今後の日経平均株価の水準についても何かしらの示唆が得られるかもしれません。そこで、過去5年間の日経平均株価と米ドル対円相場について図1にある関係式を求めて推計した日経平均株価の推計値と実際の日経平均株価を比べてみたのが図2です。推計値との誤差も記載しています。誤差は常にプラス又はマイナスということはなく、プラスになったりマイナスになったりしています。

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2013年は誤差がプラス、つまり、日経平均株価が米ドル対円相場から推計した日経平均株価推計値を上回って推移していました。これは当時、更なる円安の進行を株式投資家が期待していたことの表れといえるかもしれません。その後誤差が縮小していますが、株安となって推計値に近づくか、円安となって実際の株価に近づくか、もしくはその両方が発生しないと誤差は縮小しません。2014年の前半は主に株価の下落によりこの誤差が調整されました。

2015年央から2016年の米国大統領選挙までは円高傾向にあり、日経平均株価は下落しましたが、2015年末から2016年の前半にかけて誤差はマイナスとなっていました。つまり、実際の株価が推計値を下回っていたことになりますが、これは株式投資家が更なる円高の進行を警戒していたためと考えられます。ところが7月上旬から円安にはなっていないのに株価が上昇し始め、プラスの誤差が拡大しました。一方で米国大統領選挙後に急激に円安が進行したのに比べると日経平均株価の上昇は物足りない印象です。7月上旬以降のこれらの動きは誤差を埋めに行った動きと考えられます。

では今後数カ月どのようになるかを考えますと、プラスの誤差は縮小傾向にあり、2013年から2014年にかけての動きと似ています。誤差がプラスからマイナスになるという前提であれば、①米ドル対円相場に大きな変化がないのに日経平均株価が下落する、②円安米ドル高は進むが日経平均株価には大きな変化がない、③日経平均株価は小幅高かつ大幅な円安米ドル高が発生、④日経平均株価が大幅安かつ小幅な円高米ドル安、というシナリオが考えられます。為替相場が円安に向かっても日経平均株価はあまり反応しない、もしくは若干の円高にも関わらず下方向には敏感に反応する、という状況になるかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。