ネット関連企業の生命線―「ネットの中立性」のゆくえ


11月の米国の大統領選挙後の株式市場は金融株とインフラ関連株を筆頭に堅調に推移していますが、オバマ政権下で株高を謳歌してきたFANGに代表されるインターネット関連株については株価上昇の恩恵はあまり受けていないようです。FANGとはフェイスブック(Facebook)、アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)、ネットフリックス(Netflix)、グーグル(Google(現社名はAlphabet))の頭文字をつなげた造語で、この数年相場を牽引したインターネット関連企業の代表的な企業です。

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FANGなどのインターネット関連企業は、インターネットというインフラの上にビジネスが成り立っています。普段あたりまえのように利用しているインターネットですが、例えば、ふだんA社が提供するインターネットサービスを利用してインターネット上の様々なコンテンツを見ているものとします。あるときA社と競合関係にあるB社が提供しているコンテンツを見たいと思ったら、どうやっても閲覧できません。A社によってB社のコンテンツが閲覧できないように、アクセスを遮断されていたのでした。このような事が起きたらユーザーとしては納得いかないと思います。これはいわゆるネットの中立性に反する例です。

オープンインターネット、いわゆるネットの中立性とは、インターネットの利用者はいつでも、どこへでもアクセスできることを指します。米国においては連邦通信委員会(Federal Communications Commission(FCC))がネットの中立性を守るため、例えば、ある通信業者が自社のコンテンツを優先配信したり、他社のインターネットサービスの利用を妨げたりすることなどがないように規制及び監視しています。トランプ大統領が誕生するにあたり、トム・ウィーラーFCC委員長が来年20日に退任することが発表されました。FCCの委員は大統領によって指名されますが、5人の委員のうち3人までは同じ政党に所属することができます。新しい大統領が選出された場合には委員長が辞任するのが慣例となっています。トム・ウィーラー委員長はオバマ大統領に指名され、ネットの中立性について厳格に規制してきたことで、通信業者は批判的でしたが消費者団体からは支持を得ていました。FANGなどのインターネット関連企業がこの数年間に大きな成長を遂げたのはトム・ウィーラー委員長によってネットの中立性が守られてきたことが大きいといえます。

トランプ政権下で氏名されるFCC委員長は共和党に所属するものと見られますが、オバマ政権下で守られてきたネットの中立性は守られなくなるかもしれません。規制緩和を是とする共和党所属委員がFCCのマジョリティーとなり、通信業者に対する規制を緩和していくことになることが考えられるからです。FANGなどインターネット関連企業の株価が大統領選挙後に伸び悩んでいるのは、彼らの生命線であるネットの中立性に危機が迫っていることが意識されたものと考えられます。

トランプ氏は14日にアップルやアマゾン・ドット・コムなど、米国の大手インターネット関連企業を含む大手IT企業の幹部を集めて会談を催しました。トランプ氏は彼らの技術革新を維持し、支援すると述べたとのことですが、米国のインターネット関連企業が今後も成長を続けていくことができるのかは、トランプ次期大統領が指名するFCC委員長にかかっていると考えられます。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。