英国は金融引き締めのフロントランナーになるかもしれない


3日の英ポンド相場は中央銀行のイングランド銀行の政策金利の発表とカーニー総裁の記者会見が注目材料でしたが、政策金利発表の前にロンドンの高等法院が、英国政府がEUからの離脱をEUに正式通知する前に議会の承認が必要との判決を示したことが相場を動かしました。議会が承認しないことによってEUからの離脱、いわゆるブレグジットが取り消される可能性が意識されて英ポンドは上昇しました。この判決に対して英国政府は上告する方針のようです。


その後発表された英国の政策金利は0.25%で据え置かれました。ブレグジット懸念による英国経済を懸念する市場参加者の中には、追加利下げを予想する向きもありましたが、10月に発表されたGDP速報値が市場予想を超えるものであったこともあり、追加利下げがないことを市場は織り込んでいたのか、政策金利発表後の英ポンド相場は落ち着いていました。

英ポンドの下落が少なくとも現時点において英国経済にプラスの恩恵をもたらした反面、英国では輸入物価の上昇によるインフレ率の上昇懸念が出てきました。この点で今回のカーニー総裁の記者会見は、カーニー総裁がインフレ率の上昇と政策金利についてどのように考えているのかを知る上で非常に重要だと注目していました。記者会見での主なポイントは次の通りです。

・インフレ率の加速は(利下げを決めた8月時点の)想定よりも高い。
・英ポンドの下落によるインフレ率の上昇は一時的なものである。
・目標インフレ率を超えるインフレーションを許容するには限度がある。

カーニー総裁は10月にも議会証言でインフレの加速については許容するには限度があるとしており、今回の記者会見でもこの主張が盛り込まれたのは注目したいところです。とはいえ、記者会見中でカーニー総裁は利上げを急ぐような発言はせず、記者会見中の英ポンド相場は落ち着いていました。

先進国の金融政策を俯瞰すると、昨年に利上げした米国の今後の追加利上げは、最近のイエレン議長の主張を見る限り、かなり緩慢なペースになることが予想されます。EUでは欧州の銀行が低金利による収益悪化に苦しんでいますが、利上げによる経済への悪影響が政治不信につながり、さらにEUの結束に影響しかねないという懸念から利上げの実行は当分先となると考えられます。日本においては日銀が量から金利に目標軸を移したことで暗に金利上昇を目指していると考えられますが、インフレが進行しているわけではないので、積極的な利上げを進めていくとは思えません。一方で英国は、ブレグジット懸念によって英ポンド相場の下落が続くことでインフレが加速し、さらに英国経済に悪影響が出始めた場合においては、英国は先進国の中でも先んじて積極的な利上げ、または資産買入プログラムの縮小など金融引き締め策に踏み切るかもしれません。英ポンド相場と英国のインフレ率の動向には今後も注視したほうが良さそうです。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

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