欧州の主要銀行株の下落は新規制が影響か?


今年に入ってから欧州銀行株の下落が目立っています。欧州の主要銀行のうち、7月13日時点でドイツ銀行株やバークレイズ株はユーロ換算ベースで年初来4割を超える下落となっています。欧州を代表する企業の株式で構成されるユーロ・ストックス50指数は年初来1割程度の下落で留まっているので、その下落の大きさが際立っています。

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経済においてお金は血液のようなものです。お金を扱う金融機関の株価低迷は経済の変調を示していると考えることができるでしょう。景気が悪化すると銀行の貸付の回収が難しくなり、不良債権となります。銀行に不良債権が積みあがると銀行経営が苦しくなり、取り付け騒ぎが起きたり、資金を必要としている企業に貸し渋りが起きて企業が破綻したりと、金融システム不安が発生します。2008年9月のリーマンショック後には、経営不振に陥った銀行を救済するために各国で税金を原資とする公的資金が銀行に注入されました。

しかし、銀行救済のために税金を使うことには強い批判がありました。この批判への対策として株主だけでなく、銀行の債権者にも損失を負担してもらってからでないと公的資金は注入しませんよ、というルールが今年の1月から欧州連合(EU)加盟国にて発足したのです。これをベイルインといいます。

景気が上向きのうちは問題にならないのですが、マイナス金利による銀行収益の悪化や、景気後退によって不良債権が積み上がった銀行は、増資や資産売却、株式に転換する条項のついたCOCO債(Contingent Convertible Bond)などを発行してしのいできましたが、イタリアやスペインの中小の銀行などでは破綻のリスクが高まっている模様です。ベイルインルールさえなければ公的資金の注入が意識され、一定の水準で株価が下げ止まることが期待されますが、ベイルインルールが導入されたために投資家が銀行株や銀行が発行する債券などの証券の購入を見送り、それがいっそうの株安や銀行の資金調達に悪影響を及ぼしていると考えられます。

4月には破綻したオーストリアのヒポ・アルペ・アドリア銀行の不良債権の受け皿(バッドバンク)として設立されたヘタ・アセット・レゾリューションについて、優先債務の減免が実施されました。ベイルインルールが欧州連合(EU)加盟国で初めて適用された事例です。ドイツの銀行監督担当者はヘタの債券についてドイツの銀行に引当金を積むべきという指摘をしたとのことで、欧州のどこかの銀行が破綻するとその影響が他の銀行にも波及してくることを表した事例としても注目に値します。

そして7月29日には欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏主要銀行の資産査定と健全性審査、いわゆるストレステストの結果を公表することになっています。これは欧州の銀行を巡るリスクイベントといえるでしょう。ベイルインルールを厳守する対応を欧州連合(EU)が採った場合、欧州銀行株の一段の下落と金融システム不安に対する懸念から相場は再びリスクオフとなるかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。