2016/05/16

魅入られた作品ラファエロ Chiesa di Sant'Agostino in Rome


イタリア・ローマの下町ナボナ広場から北に5分ほど歩いた小さな広場に面して建つサンタゴスティーノ教会S'Agostinoは、13世紀に創建された後、1479~83年にかけて初期ルネッサンス様式で拡張され、18世紀に内部も改装されて現在に至っています。創建当時から15世紀に掛けては、初期ルネッサンス教会の好例と言われていた秀麗な堂内は、1756年から71年に渡って改修され、現在のような創建当時よりなおいっそう重厚さを増し、荘厳な雰囲気に包まれた堂内となりました。

曲線と直線を組み合わせて内装された堂内は神聖さと豪華さを増し、天井はじめ壁や柱までにも著名で素晴らしい芸術家たちの作品が飾られています。それらの多くは創建当時のままに残されているもので、それらのすべてが中世に活躍した著名人のものばかり。カラバッジョの傑作「ロレートの聖母」もそのひとつに数えられます。それゆえに見る者を圧倒してやまない中世の芸術の世界がここに存在し、優雅な空間を見せています。

写真は堂内の一番手前の柱に飾られたラファエロの1521年の作「預言者イザヤ」と下段に飾られた1512年のアンドレア・サンソヴィーノの作品「聖アンナと聖母」です。

“常に動きのある、その動きの中に作家の言わんとする言葉を描き、精魂を尽くした色遣いで作品を飾る”

ラファエロの優しさはこの筆遣いに見られるように製作過程の中にあるような気がします。また彼の奥ゆかしい、ある意味では女性的な思考の世界が筆の動きの中に見えますが、それはあまりにも美しく、ときにはダイナミックにも感じさせる不思議な筆遣いです。

バチカンのシスティーナ礼拝堂に描かれた同時期に活躍したミケランジェロとは色調が異なり、色遣いも彼の性格が反映されているかのように、柔和で筆致にも彼独特の優雅さと“生きる歓び”が感じられることが多々あります。それはカラバッジョと異なり、父親はウルビーノ(トスカーナ)では著名な宮廷画家であり、貴族的な環境の中で育った母親という両親に囲まれて育った環境からくるものであると思われます。その環境の中で培われた温和で優しい性格は成人してからも奢ることなく、純朴に、また、真摯に絵画の世界に生きたからでしょう。総合芸術の天才と言われるほど素晴らしい画家に育ったのもうなずけます。そして、彼が亡くなった後でもその評判は長く続き、調和された世界を最良とするルネッサンス芸術を完成させた存在でもあると賞賛されました。

でも、カラバッジョとは反対の意味で、神様は二物は与えませんでした。若い芸術家としては異例の富と権力を手中にしたラファエロでしたが、そして、画家として、人間としても栄華の人生を歩んでいたラファエロでしたが、1520年、誕生日のその日、37歳の若さで生涯を終えるのです。でも、その短い時間の中で、繊細な美しい描写で多くの聖母を描いたことで、後々ずっと「聖母の画家」とも呼ばれ、世界中の美術ファンを今なお癒し続けているのです。

ラファエロは21歳でフィレンツェへ画家の修業を積むために訪れました。フィレンツェではピエトロ・ペルジーノを師と仰ぎ、ミケランジェロやダ・ヴィンチの作品からも多くを学んでゆきます。その時、ミケランジェロは29歳、ダ・ヴィンチは52歳でした。先輩格の二人の存在を知っての訪れでしたが、その時、後に彼らと肩を並べるようにして画家として活躍するとは、本人はもちろん、誰もが想像すらできなかったと思います。

この教会を訪れた旅人の多くが、ラファエロの優しい世界に魅入られ、作品から醸し出される癒しの世界に身を託します。そして、一時ですが旅の寂しさから解放され、ラファエロが呈する安らぎの世界で至極の時を過ごします。それは彼の聖母像は安らぎと同時に、生きる歓びが描かれているからです。ことにこの作品にはラファエロならではの独特の優雅さと気品ある佇まいの中に、力強く生きるためのメッセージが込められているからです。

ヤコボ・サンソヴィーノによる彫刻「出産の聖母」につていは、下記にあらましを。

《ヤコボ・サンソヴィーノは1486年、フィレンツェに生まれ、アンドレア・サンソヴィーノの下で彫刻家として修行し、彼の名を譲り受けます。その後1527年のローマ略奪まで、彫刻家、古代彫刻修復家として働いていましたが、事件後、ヴェネツィアに逃れ、彼はそこでサン・マルコ大聖堂のドーム修復に携わり、1529年にはサン・マルコ大聖堂改修の初代監督官に任命されるなど、ヴェネツィアの主導的建築家として活躍しました》

《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手した資料、そして、ウィキペディアなどを参考にさせて頂いています》

(トラベルライター、作家 市川 昭子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。
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