ガソリンが安くなったのはなぜ?背景にある原油安とその影響


ガソリンの価格が下落傾向にあります。全国レギュラーガソリンの1リットル当たりの価格は120円台となりましたが、直近で120円台にあったのは2009年後半のとき以来です。100円台後半となると2008年後半以来の水準となります。ちょっと過去を振り返りますと2000年代台前半のレギュラーガソリンの価格は1リットル100円前後で安定して推移していましたが、2008年8月には180円を越えるまでに上昇しました。ガソリンスタンドで「レギュラー満タンで」と言っていた方も、ガソリン価格の値上がりで「3千円分だけ入れて。そのほうが燃費がいいから」と金額指定で給油したり、「○○にあるガソリンスタンドはセルフで安いらしい」とガソリン価格を気にする日々だったのではないでしょうか?

最近ガソリン価格が安くなったのは原料の原油の価格が下落していることが背景にあります。グラフは全国レギュラーガソリンの店頭現金価格とWTI原油先物価格の推移です。ニュースなどで原油が安くなったと聞くことがあるかと思いますが、原油そのものの価格ではなく、原油を対象にした先物とよばれる取引の価格を指すことが一般的です。とくに米国のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)と呼ばれる先物価格が有名どころです。他に有名なものとしては英国・ノルウェーの北海油田で生産されるブレント原油や中東のドバイ原油もあります。

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原油安によって、ガソリン価格が下落すれば家計は助かりますし、燃油サーチャージも下がれば海外旅行にも行きやすくなるかもしれません。運送業者や石油火力発電のコスト低下にもつながるかもしれません。日本のようにエネルギーを輸入に頼っている国にとって原油安は良いことばかりに見えます。

ところが世界に目を向けると喜んでもいれなさそうです。原油の輸出国は原油安に苦しんでいます。国の経済が原油輸出に依存している国として、サウジアラビア、ロシア、UAE、ナイジェリア、ベネズエラなどがあります。これらの国々は原油安で歳入が減ることにより、国の借金の返済能力や景気減速が懸念されています。原油安の理由の1つとして中国の景気減速が考えられます。2000年台後半の原油高は中国経済の急成長が背景にありましたが、その成長が鈍化したために原油需要が低下して原油価格が下落したと考えられます。需要が減っているなら供給を減らして価格を上げればよさそうですが、そうもいかない事情があります。かつて原油価格に影響力を持っていた中東の産油国を中心とするOPEC(石油輸出国機構)加盟国の原油生産量の世界シェアは4割ほどで、近年徐々にそのシェアが落ちているのです。米国がシェールオイルと呼ばれる国産の原油の供給を始めたからです。OPECとしては価格を一定の水準に維持したいけれども米国産の原油があるために減産してシェアを落とすわけにはいかない、米国の原油生産事業者を潰すためかは分かりませんが、減産はせずにシェアを維持する方針を採っています。

OPECが減産しないために原油安の傾向が続き、原油安の影響から米国の原油関連の事業者の破綻が懸念される事態が起きつつあります。原油関連の事業者は債券という証券を発行して投資家から資金を集めましたが、原油安で事業が継続が厳しくなり、返済が滞ったりする懸念から債券の価格が下落しています。これらの債券はハイ・イールド債やジャンク債と呼ばれている格付けの低い債券で、これらの債券を組み入れた投資信託の価格も下落するなど、広い範囲で影響が出てきています。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。