経済産業省で今日開かれた電力需給検証小委員会が取りまとめた『電力需給検証小委員会報告書(平成27年10月20日)』では、東日本大震災以降の原子力発電停止による火力発電の稼働増に伴う電力コストやCO2排出への影響について、次の(1)〜(3)のような報告が行われている。
(1)原子力発電の停止分の発電電力量を、火力発電の焚き増しにより代替していると仮定すると、東日本大震災前並み(2008~10年度の平均)に原子力を利用した場合に比べ、15年度の燃料費は約2.3兆円増加(国民一人当たり2万円弱、3円/kWhの負担増)。累積での燃料費増加額は14年度末までに12.4兆円、15年度末までに14.7兆円に達する〔資料1〕。これは、消費税5.3%分に相当する巨額…。
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<資料1:燃料費増加の見通し>
(出所:経済産業省『電力需給検証委員会報告書(平成27年10月20日)』 )
(2)電源構成に占める火力発電比率は、震災前10年度には約62%であったが、震災後14年度には約88%と、オイルショック時(1973年度:80%)を上回る〔資料2〕。
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<資料2:電気事業者の電源構成推移>
(出所:経済産業省『電力需給検証委員会報告書(平成27年10月20日)』 )
(3)一般電気事業者の温室効果ガス排出量は、震災前10年度は約3.74 億t-CO2であったが、震災後14年度は約4.57億t-CO2(10年度比で約0.83億 t-CO2(約22%)増)。その間、国全体の温室効果ガス排出量は10年度13.0億t-CO2から13年度14.1億t-CO2へと約1.1億t-CO2(約8%)増〔資料3〕。
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<資料3:温室効果ガス排出量の推移>
(出所:経済産業省『電力需給検証委員会報告書(平成27年10月20日)』 )
原油価格の低下や川内原発再稼働によって追加燃料費が減る見通しであり、これは率直に朗報である。13年度、14年度ともに3兆円台半ばだったので、15年度はかなりの好転となる。だからと言って、“原発いらない”とはならない。
原油相場は高下するのが常であり、いつまた上がるか、あるいは下がるか、誰にもわからない。川内原発再稼働は、再稼働させるべき原発のほんのわずかでしかない。仮に全ての原発が正常化したとしても、電気料金は震災前レベルにはそう早くには戻らない。震災以降、あまりにも大きなマイナスを溜め込んだからだ。
電力コストやエネルギー安全保障の面での早期回復策は、震災による致命的な被災プラントである福島第一以外の原発は極力早く発電再開させ、かつ、稼働率を欧米韓並みの90%以上にまで上げることである。そして、廃炉までの稼働年数40〜60年をフル稼働させた上で、円滑な廃炉プロセスに入っていくことだ。これが化石燃料資源無き日本での原子力正常化のあるべき姿である。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。