年収増えた?減った?実質賃金ってなんだ?


季節はすっかり秋に突入した感がある今日このごろだが、気の早い人は年末のボーナスが気になり始めている頃かもしれない。ボーナスが入ったら○○を買おう、△△へ旅行に行こう、とお考えの方もいれば、堅実に貯蓄だね、という方もいらっしゃるだろうし、ローンの返済が~という方もいらっしゃるだろう。さて、新たな「3本の矢」を表明した安倍首相だが、アベノミクスで給与所得者の年収は増えたのか?それとも減ったのか?ちょっと気になるところだ。

図1は現金給与総額と所定内給与額、つまりボーナスや残業代を含む給与総額と基本給の推移(事業所規模5人以上、一般労働者およびパート労働者)だ。現金給与総額が月によって変動が激しいのはボーナスを含んでいるためだ。2015年7月の速報値によると、所定内給与額は240,983円、現金給与総額は367,551円であった。ちなみに2014年12月の特別給与額(ほぼボーナスと見てよいだろう)は288,830円であった。多少の誤差はあるが過去5年くらいは全体的見て年収はさほど増えてもいないし、減ってもいないという印象だ。

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<図1>

ただしこれは名目、つまり表向きの話。年収が変わらなくても物やサービスの価格、いわゆる物価が上昇すれば出費は増えるので生活は苦しくなる。年収が増えた!自分へのご褒美にお買い物しよ~と思っていても買いたい物がベースアップ以上に値上がりしたら手が届かなくなる。というわけで、賃金の状況を見るには物価変動を考慮した実質賃金という指標で見たほうが良い。名目賃金が変わらず物価が上がれば実質賃金は低下し、名目賃金が変わらず物価が下がれば実質賃金は上昇する。

図2は名目賃金と実質賃金の前年比の推移(事業所規模5人以上、一般労働者およびパート労働者)を見たものだ。2010年は名目、実質共に前年比プラスだが、これは2008年に発生したリーマンショック後の景気低迷期の2009年と比較したものだからかもしれない。気になるのは2013年後半以降、名目賃金は前年比でほぼ横ばいだが実質賃金が低下傾向にあったところだ。ここからいえることは物価の上昇に賃金の上昇が追いついていないことを示している。2015年7月の実質賃金は前年比+0.3%とプラスとなったので物価上昇分を上回った望ましい結果となった。この背景には名目賃金の上昇もあるが、物価上昇が落ち着いたのかもしれない。

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<図2>

安倍政権はデフレ(物価が下落すること)からの脱却と実質賃金の上昇を目指しているが、ここ数年は年収は横ばい、物価は上昇、生活は苦しくなった、と感じる方が多かったかもしれない。今後については世界経済の低迷や資源安によって再びデフレ圧力が増しているように感じる。デフレ下では名目賃金が変わらなければ実質賃金が上昇するので給与所得者にとっては悪くない話だが、デフレは名目賃金の下落を伴うかもしれず、一概に喜んでもいられないだろう。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。