人民元の切り下げの意味とは?どんな影響がある?


中国が人民元を切り下げたというニュースが世界を騒がしているが、切り下げって何のこと?そんなに騒ぐほどのもの?と思われる方も多いだろう。今回はそんな人民元切り下げの意味とどんな影響が想定されるのかをまとめてみた。

中国の人民元の切り下げとは、中国の通貨、人民元の基準となる為替レートの水準を下げたということ。人民元はドルペッグといって米ドルと人民元の為替レートを一定水準に固定している。この固定された為替レートを基準値というが、11日、中国の中央銀行である中国人民銀行が人民元の基準値の切り下げを発表した。この図は人民元の対米ドル為替レートである。


為替市場や株式市場ではこのニュースに驚き相場は乱高下した。人民元の切り下げは3日連続で行われ(本稿執筆時点)、11日から13日の日経平均株価の高値と安値の差は643円にもなり、世界中に影響を与えた。人民元の切り下げの影響については様々な見方があるが、切り下げに至った経緯から今後について予想してみる。

この図は中国の資本収支の推移と内訳だ。資本収支とは事業のための投資や資産運用のための投資などを合わせたもので、資本収支がプラスであれば中国に資金が流入していること、マイナスであれば中国から資金が流出していることを示している。2014年第2四半期から資本収支がマイナスになっているが、内訳としてその他投資、具体的には現金の流出の影響が大きい。中国国内から資金を海外に逃がそうとする動きが強まったことの表れだろう。


この背景として、中国の景気後退により外国資本が資金を引き上げているとか、人民元の将来の下落を予想して国民が人民元から外貨に換えているとか、中国の高官が海外に資産を逃がしているとか様々なことが考えられる。ここ数年に起きたロンドンや日本の不動産の高騰、資金移動手段としてのビットコインの高騰などもその表れかもしれない。

中国からの資本流出により人民元が売られたことに加え、米国の利上げを目前に米ドルが他の通貨に対して強くなったことで、実施的な為替レートは人民元安米ドル高になっていたのだろう。中国当局は人民元の為替レートを維持するため為替介入をしてきたと思われる。具体的には中国当局が保有する外貨、いわゆる外貨準備を売却し、人民元を買うという行動だ。次の図にあるように資本収支がマイナスとなった2014年第2四半期以降、中国の外貨準備は減少している。最近どうも米ドルの上値が重いなぁという印象を持っている方もおられるだろうが、この一因として中国当局による米ドル売り介入があったかもしれない。

今回、人民元の切り下げに踏み切ったのは人民元安による輸出促進で景気を支えるという面もあるが、外貨準備を切り崩して為替介入することの限界を露呈したのではないかと考えられる。人民元の切り下げは中国国民にとっては輸入物価の上昇につながるのでインフレーションを引き起こすが、景気後退時におけるインフレーションは暴動などの社会不安を誘発しかねず、今回人民元を切り下げざるを得ない状況までに外貨準備が減っているという危機の表れなのかもしれない。


今後については以上の背景を踏まえると次のシナリオが想定される。

■株価が下がる?
中国の景気悪化は明らかで人民元安は焼け石に水だろう。中国に進出している企業の業績悪化は避けられないかもしれない。また、中国人観光客で賑わった日本国内の百貨店、ドラッグストア、旅行業、家電量販店の株価にも注意が必要だろう。数%の切り下げであれば観光への影響は軽微だろうが、切り下げが立て続けに行われると株価にはマイナスだろう。また中国企業と競合関係にある製造業や東南アジアの国々の企業にとっても人民元安による安売り攻勢でマイナスとなるだろう。

■円安米ドル高とみるのが一般的だがもしかしたら円高米ドル安になる?
人民元の切り下げは米ドルの相対的な価値を上げることになるので円安米ドル高のトレンドが続くというのが一般的な見方だろうが、次の点から円高米ドル安となるかもしれない。中国に進出している日本企業が投下資本や売掛金の引き上げを加速させる、中国人が資金を海外に逃がすにあたり地理的に近い日本を選ぶ。

■米国債が上昇する?
中国発の世界景気の落ち込みにより安全資産を求める投資家の需要が増えたり、中国当局が為替介入のために売却してきた米国債の売り圧力が弱まることで米国債が上昇するかもしれない。米国債の上昇は米国金利の低下につながり、日本と米国の金利差が縮小すれば円高米ドル安の要因となる可能性もある。

■金価格が上昇する?
通貨が安くなれば実物資産の金の価値は上昇するだろう。また、中国当局が為替介入で売却してきた外貨準備には金も含まれていると考えられ、人民元の切り下げで外貨準備の売却量が減れば金価格にとってはプラスだ。米ドル高で金価格は低迷してきたが人民元の切り下げ発表の前週あたりから下げ止まった印象がある。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。