2015/08/24

300年の歴史を誇るウェストミンスター橋 Westminster Bridge in London


《都会嫌いのワーズワースに「ウェストミンスター橋の上で」を詠ませた華麗なる橋》

テムズ川にかかる有名な橋の一つが、このウェストミンスター橋です。橋は貴族院と国会議事堂、そして、ロンドンの象徴的な存在のビッグ・ベンを背景にして街の中心部に建ちますが、その姿は威厳と共に風情すら漂わせ、観る者を魅了します。

なかでも誰も圧倒されるのが、秀麗さを増し、黄金の輝きを見せる初夏の午前中の陽光が当たったウェストミンスター橋です。

その情景はシックで気品が漂い、正にクラシカルな世界そのものだからでしょう、多くの著名人もこの秀麗さに心を震わせ、胸を躍らせたのです。

ウェストミンスター橋の架設案は、1664年と随分早い時期に提案されましたが、先に他所に架ける橋があったことで、必要性の高さの順で議会で否決されます。

それから約半世紀経過した1722年、必要に迫られて再度、橋の架設案を議会に提案します。

議会は二度目の案ですから無碍にできず、仕方なくも木製の橋の建設を許します。

完成した橋は正に仮設的なもので、貧相なものでしたし、最初から今にも壊れそうだったことで、誰もが嘆きながら通行したと伝えられます。

でも、その嘆きを知ってか知らぬか、15年の後の1736年、ようやく公式な橋として議会の承認を受け造り直されたのですが、当時、なぜ、反対されたのか。それは他にもいくつかの橋が既にあったことで、不必要とされたのではないのかと憶測されています。

橋周辺に住む住民にとっては生活をする上で橋は不可欠でしたし、木造とはいえ既に利用していた橋ですから、失うことの不便さを訴えたその結果、二度目にしてようやく議会の承認を得たと言われます。

そして、6年後の1739年、橋の建築に取り掛かかりますが、ロンドン市からの建設資金はあまりにも少なく、市民たちは設計図で予定した長さの半分にも満たないところで、工事を断念しなければいけないことに気づきます。

でも、どうしても架橋したかった市民たちは毎日毎晩議論を続け、思案した結果、民間から建設費用を募ることにしました。そして、それだけでも不足でしたから、工事を進めながらもそれを資本にして、異なる事業に金銭を貸して利息を稼いだり、宝くじの助成金なども加えたりして建設費用を捻出し、スイスの建築家に依頼して橋を完成させました。

立派な橋を完成させたそのことに触発されたのでしょう、ロンドンのシティは、1760年から1763年に掛けてロンドンブリッジを新たに造り直しています。また、1759年にはキューブリッジ、1769年にブラックフライアーズ橋、 1773年バタシー·ブリッジ、1777年にはリッチモンド橋などロンドン市内にはいくつもの新橋が建設されたのです。

ロンドン市民の願望と建築費を捻出するための素晴らしいアイディアで完成したウェストミンスター橋は、他の橋の建設に協力した形となり、ロンドン市内には次々と華麗なる橋が架けられたのです。

でも、残念なことにウェストミンスター橋は交通量が多かったことで、100年間ほどは維持できたものの老朽化が速く進み、使用不可能となりますが、うれしいことに今度は政府が中心となって新橋の計画が提案されます。

そして、19世紀半ばから橋の解体が始められ、1862年5月24日、トーマス·ページにより設計されたこの新橋が完成したのです。

画像で見る優雅なゴシック様式のウェストミンスター橋は、7つのアーチを特徴とした長さ252㍍、幅26㍍の壮大な錬鉄橋として、今なおロンドンを代表する橋として華麗なる姿を見せているのです。

優雅さとゴシック様式の秀麗さを併せ持つ気品漂うこの橋は、ロンドン中心部で二番目に長い歴史を誇る橋として今、多くの人々に愛されていますが、それだけではなく、完成時から数々の名画や詩の世界の舞台にもなったことでも知られます。

その中でもっとも有名な作品は、都会嫌いで有名だった英国の詩人ワーズワースが、1802年7月、詩「ウェストミンスター橋の上で」 Composed Upon Westminster Bridge を詠んだことでした。

それはフランスに残してきた愛する女性とその子供に会うために船に乗る目的で早朝、ウェストミンスター橋までやって来たワーズワースでした。都会を嫌い、また、外に出ることも嫌っていたワーズワースでしたでしたが、久々の外出でした。

ですから、様変わりしているロンドンの街の様子を橋の上から眺めていたのですが、それが余りにも美しかったので自分でも気がつかない内に詩を作っていた、という逸話が残る作品です。

“Earth has not anything to show so fair.”地球上にこれ以上美しい光景はない…。

詩はこのフレーズから始まりました。そして、こう続くのです。

“荘厳にして心揺さぶる光景を横目にそのまま立ち去るものは鈍感な魂の持ち主だ。街は今、静かで飾り気のないたたずまいの中にいる。この美しい朝の風景を衣装のようにまとって…”

愛しい人への思慕も含めながら読んだ詩であり、地球上これ以上美しい光景はない…と橋から眺めたロンドンの街の最大のの賛辞から始まった詩「ウェストミンスター橋の上で」。

ウェストミンスター橋のこの秀麗な情景をみれば、ワーズワースだけではなく誰もが心を豊かにし、思い人への思慕を募らせるかもしれません。

そして、誰もが詩人になることができる。

また、鈍い黄金の輝きに染まるセピア色のロンドンがここにあります。

ですから、誰もが心を豊かにし、思い人への思慕を募らせ、詩人になれるかもしれないのです。

(トラベルライター、作家 市川 昭子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。
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