「健康寿命」という言葉がある。日常的に介護を必要としない期間のことだ。政府の調査によれば、2013年は男性71.19歳、女性74.21歳。2010年の前回調査に比べて男性が0.78年、女性0.59年それぞれ伸びている。
平均寿命から健康寿命を差し引いた「日常生活に制限のある期間」は、男性9.02年、女性12.40年で、それぞれ前回調査から0.11年、0.28年短縮した。資料のグラフを参照されたい。
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(出所:厚生労働省)
健康寿命を脅かしているものの一つが認知症。それは今や、国民病とも言われている。その数について、2025年に最大で約730万人になるとの厚生労働省研究班の試算がある。認知症の人は2012年時点で462万人と、65歳以上の7人に1人。これが、2025年には65歳以上の5人に1人になる見通しだ。
2012年時点で、認知症有病者数は462万人。正常と認知症の中間の人である「MCI」(約400万人)も含めて広めに捉えると、認知症又はその予備軍は合計で862万人。
認知症にならないためには、どうすれば良いのか?
健常者でいるためには、どうすれば良いのか? 生活スタイルを改善・維持するべきなのか、食事を改善するのか、薬に頼るのか、機械・器具に頼るのか? 言い換えれば、認知症にならないための『健康維持コスト』の金額について、どのように考えていけば良いのか?
慶応大学によると、認知症に関連する医療費(1.9兆円)や介護費(6.4兆円)、インフォーマルケアコスト(6.2兆円)などの社会全体が負担しているコストは年間14.5兆円。将来推計では、団塊の世代が85歳以上になる35年には総額22兆9244億円にまで膨らむと試算。これでは財政が更に圧迫されていくことは必至だが、そういう点も含めて、認知症対策は喫緊の課題。
この社会的課題を解決し新たな社会保障費の抑制も見込めるサービスを、公文教育研究会がパイロット事業として実施する。このパイロット事業は、経済産業省の「平成27年度経済産業省健康寿命延伸産業創出推進事業委託事業」を公文教育研究会が受託したもので、今年7月から開始される予定。4月に開始された横須賀市における児童養護分野での試みに続き、介護予防分野では初の試みとなるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の導入を前提とした事業である。
SIBについては、公文教育研究会のHPでの解説がわかりやすい。そこから引用すると、SIBとは、「2010年にイギリスで開発され、アメリカ・オーストラリアでも導入されている新しい官民連携の社会的投資モデル。優れたサービスに、投資家が資金を提供してプログラムを実施し、削減された財政支出など、事業成果に応じて、自治体等が投資家への成功報酬を支払う仕組み」のこと。
公文教育研究会は、2004年に「くもん学習療法センター」を設立し、東北大学の川島隆太教授、福岡県の介護施設との3者で、認知症の予防・改善にアプローチする学習プログラムを開発した。書き取りや単純計算を行い脳の活性化を促すこのプログラムは、現在全国1600ヶ所の介護施設に有料で導入されている。
今回のパイロット事業は、病状の改善や予防で抑制できた社会的コストの一部を自治体が料金の一部として支払う成果報酬型のSIBの導入が前提とされる。くもん学習療法センターは慶應義塾大学や日本財団などと協業し、長野県松本市や福岡県うきは市など7自治体、45ヶ所の高齢者向け施設に、「学習療法」と当プログラムを応用して開発した「脳の健康教室」の2つのプログラムを半年間試験的に導入する。
この半年間の結果を検証し成果報酬の条件等詳細を決めた後、2017年度を目処に全国で本格展開する予定。成功報酬の仕組みを取り入れることで、当プログラムを用いたサービスの利用拡大が見込め、ひいては認知症の予防・改善や健康寿命の延伸に貢献、関連する社会的コストの削減にもつながることが期待される。
認知症の発症や重症化を防ぐことは、我々日本人が"長寿化社会ニッポン"を生き抜いていくための一助となるだろう。早急な対応が迫られる認知症対策だが、こうしたパイロット事業の本格展開により、将来の展望が開かれることが切に望まれる。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。