あなたは写真の左のドアに対面したとき、ドアを開けるためにどういったアクションをするだろうか。おそらくほとんどの方はドアを押すもしくは引くと思う。ドアを横にスライドさせる人はなかなかいないだろう。一方で写真の右のドアに対面した場合は横にスライドする人が多いだろう。このようにわたしたちは、ドアをどうやって開くのかについて、無意識にドアノブからヒントを得ている。
デザインの世界では、このようにある物をどう取り扱ったらよいかについての強い手がかりが示されていることを『アフォーダンス』があると言っている。もともとは人の使いやすい人間中心デザインに多大な貢献をしたドナルド・アーサー・ノーマンが用いて広めた概念である。
簡単にいうとユーザの度重なる経験によって生まれた俗に言う『ベタ』なものは、混乱もなく容易に使用できるということである。例をあげると、製品の一部に黒いラバー素材が巻かれているとそこを持つようになる、蓋に耳のような突起があるとそこから開けようとする、大きく突出した円柱型ボタンは押さずに回そうとするなどである。ソフトウェアにおいても、Webページで文字に下線が引いてあると押せると思う、虫眼鏡のマークがあると検索ができると思う、カーソルがグルグル回ると何もできないと思ってしまうなどがある。
もちろん新しいデザインとベタが相対することもある。スクエアでモダンな水栓金具を目指し、回すことで水が出る取っ手部分を、薄く四角い板状にしたとしよう。回さなければならない取っ手をレバーのように倒したり、スライドしたりと誤操作を誘発するものになってしまうかもしれない。もし不特定多数が使用する公共のトイレに施工されていたとしたら、ユーザは初めて見る製品に対して操作の経験もないため、慣れれば済む話と終わらせられないだろう。こういったときには、取っ手の台座部分に円の印や形状をあしらうといった回したくなるアフォーダンスを考えるべきだろう。新しいスクエアなデザインと回すアフォーダンスを持つ円形状は相対するコンセプトであり、全体のスクエアなイメージを損なわないようどういった仕立てで円を盛り込むか、その背反への挑戦がデザイナーの腕の見せ所であり、デザインの面白さでもある。
(Betonacox Design)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。