介護報酬引下げ 〜 「介護の質・量」の低下は許容すべし


今月7日付け日本経済新聞ネット記事によると、政府は「介護報酬」を2.5~3%引き下げる調整に入ったとのこと。介護報酬とは、介護事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として介護事業者に支払われるサービス費用のこと。これは、介護保険法に基づく公定価格で、3年ごとに見直される。2015年は改定年に当たる。

少子高齢社会に突入した日本。介護保険制度が発足して10余年で介護総費用は2倍以上の伸びとなっており、2014年度は10兆円に達する勢い。介護保険財政は既に逼迫状況にある。

介護サービス全体の平均収支差率は+8%程度と、一般の中小企業の水準(+2~3%弱)との差は約6%程度。昨秋頃、介護報酬を6%削減することで6000億円の介護費用削減を目指すと報じられたことがあるが、それはこの試算に基づく報道だろう。

政府の試算によれば、介護報酬を1%引き下げると、税金部分520億円、保険料部分410億円、利用者自己負担70億円で合計1000億円の削減効果が出る(資料参照)。

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<資料>

介護報酬を引き下げれば、利用者の自己負担額も引き下がる。そう聞くと一瞬、得した気分になるかもしれない。だが、実はそうではない。介護報酬を引き下げれば、介護保険サービスも確実に低下する。サービスの需要側である高齢者が増え、サービスの供給側である介護事業者の収入が減るからだ。

だからといって、介護報酬引下げへの反対キャンペーンばかりやっていても仕方がない。ただでさえ国家財政は逼迫している中で、少子高齢化はますます進んでいく。

全員一律の良質な介護保険サービスの提供を! ―― などと夢みたいなことをいつまでも標榜すべきではない。“高齢になっても、日本に住んでいれば何から何まで国が面倒を見てくれるので、誰でもゼロリスクで暮らしていける”わけはない。実際、そうなっていない。

政治家もマスコミも、そろそろ本当のことを堂々と語っていくべきだ。今後当面の日本は、「高齢化リスク」を凌いでいかなければならない。介護報酬引下げを契機として、公的介護サービスはもちろん、高齢者向け社会保障の質・量が低下していくことになっても、社会全体としては、それを許容する度量が必要になる。

そのためには、政治家たちが、現実を直視した「痛み」の享受を国民に対して説明・説得していかなければならない。心地好い響きの選挙向け演説は、特に誰も信じているわけではないだろうが、だとしても次の選挙戦の時まで封印すべきだ。

独り暮らしのお年寄り全員に、手厚い介護を!というわけにはいかない。

(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。