原子力発電所の生殺与奪は、国の原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁が握っている。2011年3月の東日本大震災以降、定期点検などで停止した原発は今も、発電が再開できていない。原発ゼロの状況が続いている。このため、現時点で電力7社が8回の料金値上げを余儀なくされ、多くの電力需要家が電力コスト増に喘いている。
昨年9月に規制委・規制庁の審査で合格となった九州電力・川内原発1・2号機(鹿児島県薩摩川内市)と、昨年12月に実質的に合格の見通しが示された関西電力・高浜原発3・4号機(福井県高浜町)も、再稼動の日程はまだ固まっていない。
規制委・規制庁に審査を申請中の原発もあれば、審査の前段階の“プレ審査”で足踏みしているため申請ができていない原発もある。後者の代表例が、日本原子力発電・敦賀原発2号機(福井県敦賀市)。もう2年以上もプレ審査が続いている。
敦賀原発2号機の建屋の直下を通る「D-1破砕帯」が活断層かどうかの判定を巡って、規制委・規制庁の方針が「科学的・技術的」なものとはとても思えないのだ。この判定については、規制委の下に設置された非公式な“有識者会合”が実質的に行うことになっているようなのだが、この有識者会合が出している調査結果が非常に曖昧なのである。
昨年12月10日に、有識者会合の調査結果に対して『専門家』がチェックする「ピア・レビュー会合」が規制委で開かれた。この様子は動画・議事録で公開されているので、時間と余裕のある人は是非ともご覧いただきたい。しかし、このピア・レビュー会合は全体で2時間45分もあり、しかも、かなりの専門的知識がないと議論の内容を十分理解することはできない。
結論から言えば、「有識者vs専門家」という構図の中で、専門家たちから多くの疑念・疑問が発せられている。それを全て説き明かすことは、「活断層」「破砕帯」の専門家ではない私にはできない。だとしても、この動画・議事録を素人が見聞しても、専門家側の優勢と有識者側の劣勢は感じるのではないだろうか。
このピア・レビュー会合に関する翌日のマスコミ報道は、揃いも揃って、有識者会合の評価書案を疑問視する専門家の指摘があったものの、評価書案の文言を修正するだけにとどめる旨を報じている。恐らく、規制委・規制庁が記者レクを行い、それをマスコミ各社がそのまま報じたのだろう。結果的に、規制委・規制庁による“報道統制”が奏功している。だが、これは決して健全な報道・ジャーナリズムではない。
その後、今月6日になって、日本原電がピア・レビュー会合で出された意見を整理した資料を発表した。この資料の前半は非常に専門性の高いもので難しいが、後半の4枚は解説付きのカラー図柄なので素人(である私やマスコミ関係者)でもかなり理解できるだろう。
この4枚を以下に添付しておくが、やや細い部分もあるので、パソコンかタブレットで実際にこの資料にアクセスしてご覧いただきたい。これは日本原電が作成した資料ではあるが、そこに書かれている字句・文章は、有識者寄りでも、専門家寄りでも、日本原電寄りでもなく、ピア・レビュー会合の動画・議事録から作成した資料としては客観性の高いものとなっている。
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こうしたわかりやすい資料は、規制される側である電力会社側が作るだけではなく、規制する側である規制委・規制庁も作るべきである。専門性が高いことであっても、それを一般国民にわかりやすく説明する努力をしなければ、信頼される行政機関にはなれないのではないか。
動画や議事録の全面公開をしている規制委・規制庁の姿勢は高く評価できるが、それだけでは一般国民の理解は深まらない。みんなそれぞれ、仕事や家事で忙しいのだ。忙しい国民に周知を徹底するには、ひたすらわかりやすい説明を心掛けるしかないはずだ。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。