アベノミクスの目玉の一つとされている「地方創生」。
――「地方から人口の流出を止めるため、卒業後の就職先に地方の企業を選択した学生の奨学金の返済を免除する」(12月19日 NHKニュース)
――「企業が本社機能を地方に移転する際、社屋などへの投資額の最大7%を法人税額から差し引けるようにする」(12月18日 日本経済新聞)
――「政府は中央省庁の官僚や民間人を地方に派遣する制度を2015年度に導入する。働く場所づくりなどに取り組む地方自治体の要望に応じて特定分野に詳しい人材などを送る」(9月29日 日本経済新聞)
などなど、様々な案が検討されているようだ。
しかし、どれもこれも、毒にこそならないが薬にもならないだろう。まして即効性は全然期待できない。歴史を見れば、やはり、売れるモノを造り出す場所が「地方創生」、つまり地域振興の拠点になる。そこで雇用が発生し、おカネが動くようになるからだ。
自動車や精密機械の工場や化学工場、発電所や石油備蓄基地などは、大きな雇用効果や経済効果を生み出す。だからと言って、国際競争が激しい昨今、日本国内に新たに大きな工場立地を!というのは夢物語。
ただ、原子力発電所がある地域は違う。特に既設原発による雇用・経済効果は、そうではない地域に比べて相当大きい。逆に言えば、現在は全ての原発が停止している。2011年3月の東日本大震災に伴う大津波による東京電力・福島第一原発の事故が原因。この影響で全国の原発立地地域では今、本来得られるはずの地域経済への恩恵が大きく失われている。
『平成25年度原子力発電施設広聴・広報等事業(原子力発電施設立地地域産業基盤整備調査事業)報告書』というお経のように長い名称のレポートが、経済産業省のホームページの中の奥の方に小さな字でPDFファイルとして掲載されている。政府は毎年、多額の税金を使って多数の「報告書」を作成している。その中にはとても有用なものもある。にもかかわらず、それを探し当てるのは至難の業に近い。(話は横道に逸れるが、政府広報のダメなところはこういう点。HPで公開するだけでは殆ど伝わらない。誰もそこに辿り着けない。)
それはさておき、上記のレポートは、原発の長期運転停止による立地地域への経済的な影響をモデル的に調査するのが趣旨で、福井県敦賀市・美浜町(地図)を取り上げたもの。敦賀市には日本原子力発電・敦賀原発(写真1)、美浜町には関西電力・美浜原発(写真2)が立地している。このレポートの内容について今年5月中旬、経産省は敦賀市に報告した。
<地図>
(出所:原子力の科学館あっとほうむHP)
<写真1>
(出所:原子力の科学館あっとほうむHP)
<写真2>
(出所:原子力の科学館あっとほうむHP)
それによると、定期検査の減少に伴う立地地域以外からの流入労働人口の減少などで、2012年度の宿泊、飲食、交通分野への影響を試算したところ、震災前2010年度に比べて▲5.8億円、25%減となっている。また、今後仮に日本原電や関電の原発の稼働が停止し続け、安全対策工事なども無くなった場合には、検査・保守サービス業などへの業務量は2010年度に比して▲95億円、28%減と大きく減ること試算された(資料)。
<資料>
(出所:平成25年度原子力発電施設広聴・広報等事業(原子力発電施設立地地域産業基盤整備調査事業)報告書)
2013年度、2014年度は敦賀原発、美浜原発はともに停止し続けているため、最大で年間100億円のマイナス影響となっている可能性がある。裏を返せば、敦賀原発と美浜原発が正常化すれば、いずれは年間100億円のプラス効果が発揮されることになる。これは、税金を使わない経済対策に等しい。
敦賀市は、原発停止への影響を緩和するための対策として、今年7月に全線開通した舞鶴若狭自動車道の関連事業やJR6社が来年秋に展開する北陸3県キャンペーン効果により、2016年度に約13.3万人の市への誘客を目指している。また、原発立地に伴う収入に頼り過ぎない安定的な産業構造の構築を模索するとしている。
原発停止による経済損失を他の施策で挽回しようとするのは、行政の視点としては理解できなくもない。しかし、収益確保手段がそれほど短期間で転換できるとは誰も思っていないだろうし、実際に無理だ。それができないことがわかっているから、敦賀市など地元自治体からの原発再稼働への要望は絶えない。
敦賀市の財政規模は今年度当初予算ベースで529億円、美浜町は同63億円。この2市町にとって、『年間100億円』の効果をもたらす原発正常化が非常に大きなものであることはすぐに理解される。
過酷事故を起こしたのでなく、震災直後の緊急点検でも正常運転の継続が認められた原子炉であるならば、そこでの原子力発電再開は原子力安全を蔑ろにすることにはならない。だから、規制基準審査と並行しながらの原子力発電再開が最善となる。これは、世界的には常識だ。安倍総理が本当に「地方創生」をしたいのであれば、そうした原子力規制の運用改善を容認する旨の会見を一刻も早く開くべきだ。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。