2014/11/10

日本人デザイナーも起用されたベルギー国立モネ劇場 Bruxelles in Belgium


《ベルギー独立運動の起点となった劇場》

ベルギーの首都ブリュッセルの中心部に広がる広場グランプラスの東側一帯は、ヌーヴォー通りを中心にしたショッピング街が広がっていますが、周辺は中世からの庶民の街だったことで、伝統ある老舗や歴史的建造物も数多く、今も活気ある佇まいを見せています。

画像はヌーヴォー通りに面して建つ「ベルギー国立モネ劇場」Theatre Royal de la Monnaieです。

劇場は1700年に公共の劇場として銀行家によって創立され、王室はじめ市民に愛された格式あるオペラ劇場でしたが、同時に周辺の国には見られない“庶民の劇場”としても存在し、ブリュッセロワたちにとっては開かれた社交場にもなっていたのです。

当時、劇場では演目が終われば市民も貴族も一体になって感想を述べ、様々な話し合いも行われるという、広場的な存在でもありました。

この頃からベルギーという国は、庶民に開かれた政治を行い、誰もが参加できる公共の場を創っていたのです。

そんな開放的な国でしたが、残念なことに国情が安定せず、スペインに占領されていた時代が終わったかと思えば、次にはフランス軍に侵略されます。その後、1813年にようやくナポレオンの支配から脱却したものの、1815年のウィーン会議によって設置された国、ネーデルラント連邦共和国と南ネーデルラント、およびリエージュ司教領から作られた“ネーデルラント連合王国”の一部となったことで、その時点でもまだ一国としての顔を持つことができずに苦しむベルギーだったのです。

ちなみに日本は江戸末期、シーボルトが出現し、間もなく明治時代に入ろうとしていたその時代、まだ、一国としての地位を得ることができないベルギーなのです。でも、辛く長い日々を経過しながらも彼らは独立の夢を諦めませんでした。

その機が来るのを息をひそめて待ち、同士と共に頑張っていました。そして、その機をついに捉えたのです。

ブリュッセルが誇るオペラの殿堂この“モネ劇場”を舞台にして、1830年、フランドル王国としてベルギーを支配していたオランダに対して怒りの決起集会を開いたのです。

そうなのです。1830年8月25日の夜に上演された「ポルティチの啞娘」(La Muette de Portici)をきっかけにして、全国民の愛国心に火がつき、当時、フランドル王国としてベルギーを支配していたオランダに対し怒りのデモを起したのです。そして、デモの流れがベルギー独立という運動へと移行していったのです。

その日の作品は17世紀のナポリで起こったスペイン人の総督に対するマサニエッロの反乱を題材にしたもので、このなかで歌われていた“Amour sacré de la patrie”「祖国への神聖なる愛」の二重唱により、観客の気持ちを奮い立たせます。そして、公演が終了した後、観客は通りにいる市民たちと合流し、群衆となって大きな声で愛国を謳い、政府の建物に押し寄せます。そして、建物を占拠してクーデターを成功させたのです。

《余談》1830年のベルギー独立と同時にブリュッセル、リエージュ、ゲントについで、43年にはアントワープに音楽院が設立され,新たに国民的な音楽を培うことに力を注ぎます。日本の江戸末期に、しかも独立したばかりの混乱期にも関わらず、ベルギーでは国民のことを第一に考え、こうして音楽の世界、また、芸術の世界を広げ国民の情操教育に力を入れたのです。

劇場はその後もこのような劇的な歴史を背負いながら、世界にあっては約300年の歴史とその名声を誇るオペラ劇場として、また、格式ある館として君臨しています。

伝統を重んじながらもあらゆる国の文化の流れを新規に取り入れることをモットーにし、誰にでも門戸を開くことから、舞台衣装の世界に高田賢三、パリのクリスチャン・ラクロアなどを衣装デザインに起用したり、2002年から2008年までは大野和士氏が日本人として初めて音楽監督を務めたりしています。

そのようなことから、モネ劇場は新しい風を常に吹き入れる大らかな精神を持ち、オペラ界に新風を巻き起こす劇場としても知られているのですが、でも、ここを有名にしているのはそれだけではありません。

ここはフランスの舞踊家モーリス・ベジャールが1953年創立したエトアール・バレエ団とモネ劇場バレエ団が1960年に合併して「20世紀バレエ団」を創立させたという、あの素晴らしい「20世紀バレエ団」の本拠地でもあるからです。

度々来日して日本のバレエファンにも親しまれたフランスの舞踊家、今は亡きモーリス・ベジャール氏です。

彼は勲三等旭日中綬章、京都賞などを授与し、日本という東洋に生きる国をこよなく愛した舞踊家でも知られますね。

モネ劇場は通常の劇場とは異なりました。市民を奮起させ、国民をも巻き込んで独立運動の先駆者になってベルギーの重要な変遷時を導いた劇場でした。

ベルギー王国180年の歴史は、モネ劇場で上演したオペラを出発点とし、今に在るのです。

そして、あの哀愁あふれるボレロを創作し、世界中の人々を感激させたモーリス・ベジャールをこの世に輩出した劇場でもあります。

ベルギーという国もブリュッセルという街も素敵過ぎます。

(トラベルライター、作家 市川 昭子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...