最近の報道によるとレギュラーガソリンの小売価格は1リットル当たりの全国平均が159.5円となり、4月以降初めて150円台まで値下がったとのこと。これは原油価格の下落の影響によるものだが、WTI原油先物価格は6月には107ドル台の高値にあったのが最近では75ドルを割っている。半年も経たないうちに3割の大幅下落になっているのだ。
日本のように原油を輸入に依存している国にとっては原油安は景気にとってプラスに働く。冒頭のガソリン価格の値下がりは家計には嬉しいし、火力発電、機械の稼動、農業機械や漁船の燃料費の低下につながる。円安が原油価格の下落以上に進むと原油安の恩恵は受けられなくなってしまうが。
日本以外でも原油の輸入が多い国としては、米国、中国、インド、韓国などが挙げられるが、米国は国産原油のシェールオイルの生産が拡大しており、もはや原油の輸入国とはいえないだろう。最近の原油価格の下落は世界景気の低迷による需要の減少が予想されていることに加えて、米国産の原油、シェールオイルの生産が拡大したことによる供給量の増加が影響していると考えられる。
ちょっと昔の社会科の教科書には石油輸出国機構(OPEC)が原油価格の決定に影響力を持っていると記述されていたように記憶しているが、それは原油生産の世界シェアの大部分をOPEC加盟国が占めていたからだ。最近は米国のシェールオイルにシェアが奪われそうになっており、これを避けたいOPECは生産を減らして価格を維持する政策よりも、生産を減らさずシェアを維持することを選択している。これも原油価格下落の要因の1つになっている。
The Economistの記事によると、主要産油国の予算案で想定している原油価格は、イランが130~140ドル、エクアドル、ベネズエラ、ナイジェリアが120ドルあたり、ロシアが100ドルあたり、サウジアラビアが90~100ドルで原油価格は想定水準を下回っている。オマーンは70~80ドル、クウェート、カタール、UAEは70ドルあたりになっている。ちなみに米国産シェールオイルの採算ラインは独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の資料によると上は90ドルあたり、下は40ドルあたりとばらつきがあるものの、平均的には50~60ドルとなっている。
もし、原油価格が70ドルを割るような水準でとどまるとすると、日本や中国、インドにとってはプラスだがそもそも需要が減っているなかでプラスの寄与度は大きくないかもしれない。日本のおいては円安も進んでおり、原油安の恩恵が受けにくくなっている。一方で原油収入に頼る国々は想定した原油収入が得られないという点でのダメージは深刻で、主要産油国では通貨の下落、国債の利払い不履行、株価の下落が起こるかもしれない。米国のシェールオイル採掘業者の中にも採算割れで破綻する業者が出てくる可能性もある。OPECをはじめとする主要産油国の動向、原油価格の動向には注目しておいたほうがよさそうだ。
(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。