アベノミクスの雇用環境への効能 ~ マクロでは好調傾向、ミクロでは好調・不調それぞれ


総務省が先月30日に発表した「労働力調査 平成26年8月分」によると、同月の就業者数や雇用者数、完全失業率は次の通り。

・就業者数6363万人(前年同月比53万人増、20か月連続増)
・雇用者数5600万人(前年同月比38万人増)
・完全失業者数231万人(前年同月比40万人減、51か月連続減)
・完全失業率(季節調整値)3.5%(前月比0.3ポイント減)

今春の春闘の結果を見ていると、大企業や中堅企業の一部に関しては、賃金水準上昇が見られている点ではアベノミクスの効能が現れていると言える。マクロ雇用情勢については、2012年からの毎月の推移(下の資料1~資料2)に見られるように、安倍政権になってから好い傾向は着実に続いてきている。

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<資料1>

<資料2>

個別のミクロ雇用情勢はそれぞれ異なるので、『雇用情勢格差』も見られるところだ。更に例えば、正規の職員・従業員数は3305万人で前年同月比4万人減で、非正規の職員・従業員数は1948万人で前年同月比42万人増となっている。マクロ指標とミクロ指標を適切に抽出して比較しないと、適格な景況判断はできない。

アベノミクスへの評価としては、高いものもあれば低いものもある。各種の経済指標や賃金指標には、好調・不調がまちまちである。安倍政権の現下の最大の課題の一つは、法律上では来年10月に予定されている消費増税(税率8%→10%)の可否判断。

どの指標に注目するかで評価は違ったものになるが、一般的に最も景気動向を体感するのは、実質GDPや賃金の水準であろう。我々国民が特に肌で感じるのは賃金に違いない。現金給与総額は前年同月比1.4%増で6か月連続増ではあるが、実質賃金指数(現金給与総額)は前年同月比2.6%減となっている。これは、消費者物価指数の前年同月比4.0%上昇が影響している。

実質賃金が上昇しないと、本質的には景況改善を感じ難い。そこに辿り着くまでには、今の傾向が続くにしても、まだかなりの時間を要すると思われる。消費増税は、そういう点での短期的影響を伴うものだ。消費増税が遅過ぎたことは、社会保障関連費用の見通しやこれまでの財政関連指標を見ればすぐにわかる。

だとしても、社会保障財源確保という長期モノのための消費増税でさえ、足許の短期的な指標で決められてしまう。これが日本の財政危機をじわじわと深いものにしてきた危機管理面での根源的欠陥である。

(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。