災害発生時に命を守る自助・共助


インシデント・コマンド・システム(Incident Command System)は、米国で開発された災害現場や事故現場などにおける標準化された対応手法である。その組織の5つの主要な機能(Functions)は、指揮(Command)、実行(Operation)、情報・計画(Planning)、資源管理(Logistics)、財務(Finance)から構成される。

この5つの機能から大きな組織や部隊を想像するかもしれないが、インシデント・コマンド・システムでは、「一人であってもインシデント・コマンド・システム」といわれている。このことはつまり、災害現場や事故現場での対応にあたる際には、個人であろうとも集団であろうとも、この5つの主要な機能が必要だということである。災害発生直後の自助のフェーズでは、自らがコマンダーとして意思決定を行わなければならない。その意思決定をよりよいものにするためには情報が必要である。情報と計画、意思決定に基づき実行するのは自分である。そして、生き延びるための資源やお金も必要となるという考え方である。

被害拡大の2大要因には「情報の正確性」と「意思決定・資源配分の速度」があるといわれている(図1参照)。災害時に実際に起きていることを直ちに情報として入手できるのは現場にいる者である。そして、その現場にいる者が早急に意思決定を行い行動すれば被害の拡大を防げる可能性が高くなるということになる。


大規模な災害が発生したときには、直ちに救助チームや救急車が各現場に駆けつけてくれることを期待することは現実的ではない。被害を拡大しないためには現場にいる自分自身が主体的に自らの命を守り、さらには、災害時に居合わせた周辺の人々と互いに助け合い、互いの命を守るために最善を尽くすことが必要となる。

被害を拡大しないための事前対策の重要性は言うまでもない。そして、災害発生時には、とにかく危険な場所から早期に避難することが被害の拡大を防ぐことに繋がる。しかし、何とか安全な場所に避難できたとしても、災害による環境や文明の破壊によって生活環境は一変し、日常性を喪失する可能性がある。

そのような環境に置かれたときに、どのような健康被害起きるのかということを知り、そして、どのように自分たちの命と健康を守るのか、または守れるのかということを、一人でも多くの人が少しでも知ることによって何らかの最善策につながる可能性が生まれるものと思う。 

3回目、4回目のコラムは、救急医療や災害医療に携わる医師たちから災害と健康被害に焦点を当てた解説を掲載する。

(NPO災害人道医療支援会 HuMA 常任理事/東京医療保健大学東が丘・立川看護学部災害看護コース准教授 石井 美恵子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。