デザイナーと武家社会をつなぐもの「家紋」(前編)



SONYは日本産業パートナーズへPC事業を譲渡し、長く親しまれてきたPCブランド「VAIO」は2014年7月より新会社VAIO株式会社のもとで再出発することになった。母体が変われど継承されているVAIOというネーミングは Video Audio Integrated Operation の頭文字からきている。そしてVAIOのロゴマークは、繋がったVとAがアナログ信号である正弦波の波形を表わし、IとOはデジタル信号の1と0を表しており、ロゴ全体でアナログとデジタルの融合、まさにintegrationを表している。このようにロゴはネーミングに込められた開発者たちの想いや哲学を限られた情報量で表現している。

単純なようで非常に奥が深いロゴのデザインはCIやブランディングという近代的な言葉と親和的だが、実際のところ日本古来から「家紋」として存在している。平安時代の終わりに武士は自らが治めていた土地の名前を名字(苗字)とし同じ名字の一族と区別するために家紋を掲げたといわれている。その後の時代で身分や職業を意味する名字を持つことが広がり家紋もますます増えていった。まさに名字というネーミングに対して家紋というロゴが古くからあったということである。

そして当然に家紋を考える人々が存在し、彼らは「紋章上絵師」と呼ばれクライアントから注文を受けて家紋を創作し、その業態は現代のデザイナーとなんら変わりない。絵師たちは江戸時代の家紋ブームの際に特に数多く存在し、少なくなったが今でも活躍している。今回はそんな歴史ある家紋のデザインを少しだけ紹介していきたい。

【庵紋】
大工関係の職から名字がついた工藤家がこの家を表す紋を使っている。現在でも様々なUIでホーム(家)のアイコンはおおよそこの形であり何百年も昔から変わらない表現方法ということである。

【井桁紋】
命の源である水を得ることができる井戸を由来に井のつく名字に使われている。井戸から水が溢れるようにお金が儲かるという意味もあり、三井や住友のロゴにも使われている。

【釘抜紋】
釘抜きは読みが「九城を抜く」つまり九つの城を攻め落とせるということに通じているとされ、武士にとって縁起が良いということで紋に使われている。昔の釘抜きはテコと座金の二つの部品から構成されており紋には座金を模ったものが多い。

【鍵紋】
鍵は財産を守るものとされ、縁起が良いということで紋に使われている。昔の鍵は角張った渦型であり二つを交わらせて美しい菱形にしたものもあり、西洋の鍵をもとにしたものもある。

(Betonacox Design)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。