2014/08/07

災害多発国日本に住む者としての覚悟と備えを


国内外での災害医療支援活動を幾度か経験をしてきた。その被災地で、頻繁に耳にするのは「まさか、こんなことが起きるとは思わなかった」という言葉である。災害心理学では、これを楽観的無防備という。 今年も、各地で台風や豪雨による被害が相次いでいる。災害の種類や規模はさまざまではあるが、人類史上始まって以来ずっと、人類は自然災害の脅威にさらされ続け、誰もが抱えているリスクとしてそこに存在してきた。文明がどれだけ発達しても、この脅威・猛威から完全に逃れられる日はやってこないであろう。

しかし、それでも人間は、その苦難が自分の身に起きるとは実感できないし、危機感を持ち続けて生きていくことはできないのである。

そもそも私たちが生きる環境には、多種多様なリスクが存在している。事故に遭うかもしれない、事件に巻き込まれるかもしれない、という恐れを持ち続け、完全に防備しようとすれば全く身動きが取れなくなってしまうことになる。楽観的無防備というセンスがなければ健康な社会生活を営むことは困難なのである。 したがって、この楽観的無防備をわたしたち人間の能力から取り外すことはできない。しかし、災害という事態に対峙するときには、この楽観的無防備が被害を拡大させることがある。避難指示や避難勧告が発令されても、自分に身に災難が降りかかると実感できなければ避難行動につなげることはできないし、また、実感したときには既に手遅れということにもなりかねないのである。

災害対策などで、「危機感がない」とか「もっと危機感を持たなければならない」というようなことが取り沙汰されることがある。しかし、人間は危機感を持ち続けては生きていけないのであり、楽観的無防備なくしても生きてはいけないのである。この人間の本性を前提として、災害という事態と向き合わなければ、より実行性のある備えにつなげることは困難である。体験談や教訓集などの資料を見聞きしたときには一時的に危機感を感じるかもしれない。しかし、それを持続させることはできないし、また体験談や教訓集にとどまっていては次の災害への具体的な備えにはならないのである。

内閣府の資料によれば、日本は、その自然的条件から災害が発生しやすい国土であり、世界全体に占める日本の災害発生割合は、マグニチュード6以上の地震回数20.5%、災害被害額16.0%など、世界の0.25%の国土面積に比して、非常に高いとされている。

まずは、この事実を正しく知覚し、死を覚悟して生きるということと同様に、一人ひとりが災害多発国日本に住むものとして覚悟をもつことが肝要である。楽観的無防備や危機感を持ち続けられないという人間の本性を覚悟し、英知をもって自己点検を行い、いたずらに恐れや不安ばかりを募らせるのではなく、自分にできる最善をもって災害に備えることが必要である。どれだけ国や自治体が事前対策を行っても、災害発生直後には自助努力で対処しなければならない時期が存在する。その自助努力の間の被害を最小にとどめる方略としても個々が備えることが必要なのである。

備蓄することばかりが備えではなく、知識を獲得することも備えにつながると確信して、災害と健康や医療にまつわるテーマで連載をスタートさせる。未来に必ずやってくる災害に備えるための一助となることを願う。

写真出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Dylan McCord

(NPO災害人道医療支援会 HuMA 常任理事/東京医療保健大学東が丘・立川看護学部災害看護コース准教授 石井 美恵子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。
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