HFTの拡大で株価下落のショックは大きくなる?


7月22日から東京証券取引所は一部の大型株に関して呼値変更といって株価の刻みを1円単位から10銭または50銭単位に小さくする変更を行った。東京証券取引所の説明によると、「流動性が高い銘柄について細かい呼値の単位を導入することで、約定価格の改善や、指値注文における値段の選択肢の広がりによる板での順番待ちの緩和など、投資家の皆様の利便性の向上が期待されます」とのこと。

東京証券取引所は2010 年初にアローヘッドという株式高速取引システムを導入し、稼働を開始し、HFT(High-frequency trading、高速・高頻度取引)が日本においても本格化した。システムにより頻繁に売買を繰り返し、小さな値上がり益を積み上げていくのがHFTの特徴であり、主に機関投資家やヘッジファンドがHFTを利用していると見られている。今回の呼値変更もHFTを助長するものであり、HFTができない個人のデイトレーダーにはメリットが無いかもしれない。

大型株のデイトレードは難しくなるのでデイトレードの対象はHFTの対象になりにくい小型株、新興株となるだろう。東京証券取引所におけるHFTの売買シェアは同所社長が2012年の記者会見で「市場の4割を占める超短期売買のHFT」とおっしゃっているので現在のHFTのシェアは4~5割といったところだろう。

季節的な要因もあるだろうが、最近のボラティリティ(価格の変動性を示す指標)の低下は売買シェアの約半分を占めるHFTによるところもあるのではないかと思われる。さらに22日からの呼値変更によってボラティリティの低下に拍車がかかるだろう。HFTによるボラティリティの低下のイメージは日銀レビュー「株式市場における高速・高頻度取引の影響」の図表5を見ると分かりやすい。

HFT拡大による影響で私が懸念しているのは、リーマンショックのような市場ショックのときの下げ幅が大きくなると考えられることだ。時価総額が大きく株価指数に採用されている大型株を取引するのはHFTが拡大するほど個人投資家ではなく、機関投資家やヘッジファンドとなる。彼らには市場急変時には売却しなければならないロスカットルールがあったり、顧客の解約に応じて保有株式を売却する必要がある。株式市場に急変が起きると売りが集中して更なる暴落を生む可能性があるのだ。

平時のボラティリティは低下するだろうが、ショック時のボラティリティはHFTが拡大するほど大きく、かつHFTにより下落スピードはかつてないものになると思われる。機関投資家の換金売りのニュースには気をつけたほうが良いだろう。また、ヘッジファンドは3、6、9、12月末の各45日前まで解約を受け付けることが多いとされ、各解約締切日前の数週間にも注意しておいた方がよいだろう。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。