車も家も戸籍もないけれど結婚できますか?中国の結婚事情



最近中国で公開された映画の中に「北京愛情物語」というものがある。北京に住む5組の老若男女の愛情劇を描いたものだが、そのうちの一組のストーリーが非常に興味深いものだった。ストーリーはこうだ。

建築家のタマゴの貧乏青年と金持ちの彼氏が居た美女が一夜にして恋に落ち、子供が出来てしまう。青年は彼女に対してこう言う。「車も家も北京に戸籍も無い俺だけど、それでも良ければ結婚してください」彼女はそれを受け入れ、金持ちの彼氏との縁を切る。

その後、青年の家に彼女の母親が一人でやって来てこう言う。「お金のないあなたが、あの子をどうやって幸せにできるの?あの子には少なくとも家を持っている人と結婚しなさいと言ったのに」

初めて聞くと何で結婚するために家を持たなければならないのかと疑問を抱くところがある。しかし、これは何も映画に限った話ではない。中国の男女が結婚を意識する際に直面する問題そのものなのだ。

中国では、通常女性が結婚相手を選ぶときの条件は「家と車とお金(もしくは地位・金)を持っている人」である。日本であれば、家や車は結婚した後に夫婦の共通財産として購入するパターンが多いと思うが、中国女子は違う。男性がこの「三種の神器」を持っていないと結婚相手としてみなさないことが多い。

そのためか、よく女子トークの中で「彼は確かにルックスはいいんだけど、車と家がないから結婚できないわよね」と話題に出す子がかなり多い。 もし「私の彼氏、家も車も地位もないけど、愛があるから結婚するわ!」という子が居れば、その子は間違いなく周囲から冷たい視線を浴びることになるだろう。

また、仮に子供が神器を気にしなくても、「北京愛情物語」のように親が許さないパターンも多い。一人っ子社会の中国では、親や祖父母はたった一人の我が子に一身に愛を傾け続ける。そんな手塩にかけて育てた可愛い我が子を、ちゃらんぽらんな人間に渡したくないという思いが、恐らく日本よりも一際強い。

ただ、そういった我が子の幸せを願う傍、面子や社会的な体裁をやけに気にする中国文化も根本にあるのは間違いないだろう。そんな背景や思惑があるからこそ、適齢期になった男性は大変だ。

家と車と地位/金/戸籍が無ければ結婚相手として見られないと言っても過言ではないのだから、必死になってそれをゲットしなければならない。 そのため、余程の金持ちは別だが、普通の稼ぎの男性は自分の趣味に回すお金は最小限にとどめて、自分の給料の大半を車と家のローンに当て、お嫁さんを迎え入れる準備をし始める。

以前、中国に来たばかりの頃に知り合った中国人男性に初対面で「俺は家と車を持っている」と一生懸命アピールされたことがあったが、あの頃は「なんでこんなことアピールするのだろう」と思っていたが、今となってはあれが求婚のサインであることに気が付く。

そうやって考えるとなんだか中国人男性はかわいそうだなと思うが、実はそうでもないらしい。彼らは仕事以上に、家族と過ごす時間を一番に大事にし、年をとっても妻を愛し続けることを忘れない人が多いと感じる。そのため、例え自分の趣味に回すお金が無くても、将来の妻や子供との幸せな時間を迎えるための試練と思えば苦にならないということらしい。 しかし、日本女子は「高収入・高学歴・高身長」といったスペックを求め、中国女子は物質的なものを求める。

求める対象は違えども、結婚後も豊かで幸せに生きていきたいと願う女子の本質は、国が違えども変わらないのだろう。

(岸 里砂)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。