中国人が日本人を相手に仕事をして苦労すること


大連ソフトウェアパークは、外資IT系会社によるBPO業務の一大集積地だ。ここでは、日本を始めとした世界各国の会社が進出し、その仕事の大半を現地の中国人が請け負っている。今回、筆者は米国系IT会社で対日本人へのテクニカルサポート業をしている李氏にインタビューを実施した。

———:李さんの御出身と、その街の特徴を教えてください。

李氏:私は中国吉林省の延吉で生まれました。食べ物がとても美味しいところです。

———:李さんは大学まで日本語を勉強してこなかったのに、なぜ大学卒業と同時に日本の大学院へ留学を選択したのですか?周りに日本に留学をしていた人が多かったからとか?

李氏:先ず、大学入試に失敗したのでどうしても大学院には行きたかったという動機がありました。それで考えたのですが、地理関係等からみてもアメリカなどへ留学するよりも日本へ留学する方が利便性が良かったんですね。なので日本が妥当と思い、日本の国立の大学院へ留学を決めたんです。ただ、当時私の地元には日本に留学していた人は少なかったですね。大学時代は中国人留学生も結構いたような気はしますけど。

———:なるほど。日本で2年間の大学院生活の後に、日本の企業に就職されたと以前お伺いしました。実際にはどのような業務をされていましたか?

李氏:広告業界の様なところで働いていました。具体的に言うと、営業が取ってきた店舗の広告内容を考え、カメラマンやデザイナーに指示を与え視覚化し、商案を顧客に提示するというものでした。

———:仕事の経験を通じて学んだことがあれば教えてください。

李氏:当時の会社の社長と先輩に出会えたことで身に着いたことですが、俯瞰的に物事を捉える姿勢や、自分の役割を最大限に活かす方法を学ぶことが出来ました。

———:最大限に活かす方法とは?

李氏:既存のロールからの変更を余儀なくされた時に、このロールの変化を自然に気づくのではなく、自分で予め気がついて臨機応変に自分の意識をも変えていくことが大切だということです。前のロールを引き摺っている状態では、新しいモノは身につけることは出来ません。

———:なるほど。愚問かもしれませんが、日本で身に付けたこの考え方は、中国企業で働いていたとしても身につけることは可能だったと思いますか?

李氏:中国企業で働いたことが無いので何とも言えませんが、その会社に良い上司やモデルがあれば可能だったと思いますね。ただ、日本人と中国人とでは文化も違うし考え方が違いますからね。「俯瞰的に物事をみる」ということは身に着かなかったとは思います。

———:どういう点に置いて、そう考えたのでしょうか?

李氏:中国の交通を例に挙げます。中国では、些細なことで車のクラクション鳴らしたり、渋滞の時は割り込みをする車が後を絶ちません。割り込みすると、渋滞は余計に酷くなります。しかし、当の運転者はそんなことは意に介せず、「少しでも早くなるから」といった目先の利益のみのために1cmでも進もうとします。日本の様に「譲り合えばスムーズに進む」という当たり前の感覚を多くの人が持ってないんですよね。そういう意味では、俯瞰的に物事を見ている人が少ない様に感じますので、確率的にもこの能力が身に着くことは低いんじゃないかなと考えました。

———:そうですね。やはり、国によって考え方が違えば、それに準して働き方も違ってくるかもしれませんね。そういうことであれば、身近な例ですが、日本のコールセンターと中国のコールセンター、この両者が表象しているかと思います。日本のコールセンターでは必ずきちんとした敬語を使い、顧客を尊重しなければなりません。「出来ません」とはっきり言えないですしね、お客さん怒りますから。だけど、中国のコールセンターは違う。出来ないことははっきり「出来ない」っていうし、顧客が間違っていたら「間違ってます」とはっきり言う。

李氏:顧客と喧嘩しているオペレータもたまにみかけますよ。

———:これが罷り通るのはやっぱり国によって人々の考え方が違うからでしょうね。中国式のやり方は日本では通用しないし、日本式のやり方も中国ではおかしくみられる。

李氏:そこですね。なので、私のこの日本社会で身に付けた考え方や道理も、もし生粋の中国の会社に入ったら適用しないかもしれません。ですので、日本企業と中国企業の対照はちょっと難しいですね。良い、悪いというのは決めかねます。

———:IT会社の対日本人相手のサポートエンジニア業をした後、今現在はマネージメント側にて活躍されていますね。中国人として日本人と働く、ということで感じる偏見や苦労話などはありますか?

李氏:例えば日本人のお客様に「分かる?」と言われた時が一番偏見を感じました。これは、日本で働いている時も同じ感覚を味わいました。この「分かる」という言葉は国籍の違いで2つの意味合いがあると思います。お客様が、日本人に対してこの言葉を使えば「私の話を納得できましたか」という意味になります。一方で、中国人に対してこの言葉を使うと「日本語理解できてる?」という意味合いになることが実は結構多いんです。中には、「李です」と名乗っただけで「日本人に代われ」というお客様もいます。 私は自分の日本語に自信をもっていますし、日本人と対等に話合いも出来ています。それなのに、中国人だからと言って、そう言った態度をとられると悔しくて悲しくてしょうがなくなります。でも、そういう人はごくまれ。大抵は、そいういうことを表面化しない、優しい方が多いですけどね。

———:「中国人だから」という理由だけで、意思疎通が出来ないと思う人もいるでしょうね。実際に意思疎通は出来ているし、中国人オペレータも正しい案内を正しい日本語でしているにも関わらず「中国人だから意思疎通が出来なかった」ということもあるのでは?

李氏:はい。そのため、私達中国人が対日本人を相手として心掛けなければならないのは、ミスは厳禁ということです。コミュニケーション・手配・案内、どの場面に置いても、外国人はミスをしたら対日の仕事としては成り立たない。ミスが多ければ単純なBPOしか出来ません。日本人と同じ仕事をしたければ、ミスは本当にしないでって感じです。 ミスミスいってますが、これを順守できない限り、日本人の顧客に安心感を与えることは出来ませんからね。 ただ、このプレッシャーはとてつもなく大きいです。

———:日本人同士では決して感じることのないモノを背負い仕事をされているということを改めて実感しました。日本人は日本語を喋れば仕事は出来る、でも中国では母国語以外の言語が無いと良い給料の仕事には就きにくいと聞きました。実際に大連市には対日の企業はとても多いだけに、従事されている方々には頭が上がりません。

李氏:まぁ、本人の努力次第ですね!

———:最後の質問です。ズバリ日本に行って良かったことは?

李氏:一番は日本企業で通用する価値観を身につけれたこと。そして、中国とは次元の違う高い生活レベルや意識の中で過ごすことで、本当の意味で良いモノと悪いモノの判別が出来るようになったことでした。

———:ありがとうございました。

(岸 里砂)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。