元は変電所だったテート・モダン Tate Modern in London



ロンドンのテムズ川河畔に建つテート・モダンは、リキテンスタインはじめ、ダリ、マグリット、ジャクソン・ポロックなど、近代画家として世界中に知られる作家たちの話題作が一堂に揃った美術館で知られます。

テート・モダン Tate Modernは、ロンドンのテムズ川畔、サウス・バンク地区にある国立の近現代美術館として世界中にその名を馳せる名門美術館であり、対岸に建つテート・ブリテンなどとともに、国立美術館ネットワーク「テートTate」の一部をなしている美術館でもあります。

写真はそのサウス・バンク地区に建設されていた「バンクサイド発電所」を改修して開かれた美術館、テート・モダンのエントランスホールです。

テムズ川を挟んだテート・モダンの北側には、金融街シティ・オブ・ロンドンの他、ストランドなどロンドンの下町が広がり、中世から今に至るまで終日多くの人でにぎわうエリアですが、その南側に広がったサウス・バンクは最近までロンドンの工場・倉庫街として活用されていました。ですから昼間はともかく、夜になると人の行き交うことのない無人化同然の界隈となり、それも年を経るごとに寂れてゆくばかりでした。

「バンクサイド発電所」は戦後ロンドンの電力不足を解消するために急遽建てられたもので、その場しのぎ的なものだったことは否めなく、結局、建設して半世紀も経過しない1981年に、“帯に短し、たすきに長し”といった具合で用済みとなってしまうのです。

でも、場当たり的に建設されたとはいえ、発電所としての機能をしっかりと持ち、建物もそれなりに堅固なものでしたから、廃墟化しても建立時のままに凛として建っていましたし、神様はその姿にほだされたのでしょうか、発電所に再び羽ばたくチャンスを与えたのです。

そのチャンスは、1980年に入ってからアメリカを最初にして世界中で“ウォーターフロント開発”と称し、各街の河畔に広がる倉庫街の開発が始まったことに端を発したのです。

というのもその波はパリはじめこのロンドンなどヨーロッパ全土に押し寄せ、日本にまで広がるという大きな波紋を作ったからでした。

1980年初頭の頃のロンドンは、テムズ川上流対岸のミルバンク地区にある「テート・ギャラリー(現テート・ブリテン)」が展示・収蔵スペースの不足に悩まされていた時期で、新しい美術館を建設しなければならなくなっていましたから、その流れの中で、寂れたこ地区に目が向けられ、無人化していた「バンクサイド発電所」の存在にスポットが当てられたのです。

再利用しようとしたその根拠は、発電所は1947年と1963年の二度に分けての工事が進められたのですが、ロンドン名物の赤い電話ボックスの設計で知られるサー・ジャイルズ・ギルバート・スコットの設計という現代にも通用する斬新なデザインがなされていたことで、当時、注目を集める素晴らしい建造物であったからでした。

ですから長い間、無用の廃物的な存在であっても取り壊されずに、逆に開発を後押しした形となって、再利用改造論はあっという間に実行に移されたのです。

変電所を美術館に改造するという案が、議会の承認を得ると同時に、改築デザインの一般公募が始まりました。

世界中から有名・無名に問わず建築家たちから思案が提出されましたが、スイスの新鋭建築家コンビ、ヘルツォーク&ド・ムーロンが勝利し、彼らのデザインで改造工事がなされました。ちなみに日本からは安藤忠雄氏などが参加していました。

こうして無用の長物扱いされていた発電所はスイス人二人の建築家の手によって、パリの駅舎を改造して開かれたオルセー美術館同様に、外観はもちろんのこと、内部も1900年半ばのクラシカルなデザインを極力生かし、省エネ兼展示作品を守るために外光を取り入れた明るい美術館として2000年5月12日、新生されたのです。

写真は入口に広がる大エントランスホールを撮ったものですが、発電所時代にはここは発電機のあった巨大なタービン・ホールだったところです。

発電所時代そのままの鉄骨で組まれた階上はレトロな雰囲気で素敵ですし、採光のための窓をポイントにした爽やかさと謙虚さ、そして、ダイナミックさを表現した屋上も、美術館とは思えない情景で、訪れる人々の視線を集め喜ばせています。

1階にはこのエントランスと広大なミュージアムショップが設置されています。また、6階にはテムズ川を望むレストランフロアが広がるのですが、そこからの眺望は素晴らしく、ロンドンっ子お気に入りのデート・ポイントとなっています。

7階建ての館内には、3階、4階、5階の展示室のほか、常設展示は3階、5階にある4つの展示室などが設けられています。

企画展示室以外は入場料無料。うれしいですね。

(トラベルライター、作家 市川 昭子)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。