ジョン・ロブ(John Lobb)は英国の靴製造と販売を手掛ける老舗であり、英国王室御用達のブランドのひとつで知られます。
革、生産技術などにおいて徹底したこだわりを持ち、気品溢れるクラシック仕立ての英国靴を製造販売することで知られるジョン・ロブ。ロンドンでは1866年から、パリでは1902年から紳士用の高級ブーツやシューズを作り続けています。
顧客には、作家のジョージ・バーナード・ショーはじめ、ロアルド・ダール、英国の首相ハロルド・マクミラン、トロンボーン奏者のテッド・ヒースの他、レックス・ハリソン、コール・ポーターなど英国ばかりではなく、世界中に多くのファンを持つことで、日本をはじめ、世界20カ国の主要都市に店舗を点在させています。
ジョン・ロブは1829年英国コーンウォール州に生まれ、ロンドンで靴の修行をした後、当時英国王室の支配下にあったオーストラリアで、1858年に靴専門店『ジョン・ロブ』を創業します。その後、ロンドンに戻った彼は、完成度の高い靴を創るために研究に没頭し、1862年、長年研究して完成した作品のいくつかを英国万国博覧会に飾ると、何と金賞を受賞。
自信をつけたジョン・ロブは、翌年、当時の英国皇太子(エドワード7世)に金賞の対称となったブーツを献上し、英国王室御用達靴職人に任命されるまでになるのです。
1866年、ロンドンのリージェントストリート296番地に第1号店を創設するや否や、評判を聞きつけた上流社会の人々はじめ、王室関係者たちからの注文が殺到。
ロンドンでの成功を受け、1902年には二代目によりパリにジョン・ロブ・パリを開設し、以来、世界の20カ国に店舗を開き、今に至ります。
190という多くの工程を経て、1足の靴を完成させるという気の遠くなるような制作手法は、創業以来今も不変ですし、顧客一人一人の足型は100年を経過しても捨てられることがないというのです。英国紳士靴の誂え、ビスポーク(Bespoke)の世界では、このジョン・ロブをおいて超一流は他には見当たらないという評判も創業以来、不変なのです。
もちろん、その職人技が創り上げる製品のいずれも逸品としか言いようがなく、その後の質の高いサービスも世界一を誇るのです。
1976年、エルメスがジョン・ロブに資本参加しますが、時代を超越した職人技や質の高いサービスは創業以来変わりません。
伝統の技は日本にもどこの国にも息づきます。それはその国の文化であり、伝統的遺産でもあるのですから、個々の国がもっとも誇れる技術となってもいるのです。
そして、その伝統という技を創りだした人々はその国のもっとも大切にすべき人材であり、そうあるべきです。
もちろん、英国は言われるまでもなく、そのような優れた人材を大切にし、守り続けています。中世の時代から今に至るまで、伝統技術を後世に残すためあって、政府がブランドを擁護し、守っているのです。それも不変です。
ですから、こうした伝統的な技を今に継ぐ老舗が多数現存し、英国の伝統的な文化を守り抜く役目を担ってもいるのです。
ここで、ロイヤルワラントについて、少しご説明を致しましょう。
英国王室御用達は、王族の方々のお気に入りが大半で、それぞれが製品の生産者に対して、王室から御用達リストに加えたいという申し出をするというのです。簡単に言えば、王族から生産者に「王室御用達の会社、あるいはお店になって頂けませんか?」という申し出をするのです。
また、日本の「皇室御用達」は、「宮内庁が調達する物品を指し、品物としての本来のステータスは皇室御用達または「―御用」である。“質素を旨とする”とされてはいるものの、その品位を保つ為に天皇・皇后・皇族の使用品には全て日本一の最高級品が用いられている」
とウィキペディアには明記されていますが、その通りで、英国のそれとは日本は逆ですね。
現在、洋食器のウェッジウッド、紅茶のトワイニング、アパレルのバーバリー、アスプレイ、ギーブス&ホークス、そして、このジョン・ロブなど、およそ800の企業と個人が英国王室御用達の栄誉を得、ロイヤルワラント(英国王室)の紋章を入口に掲げることを認められています。
ロンドンにはまだまだ多くのこのような王室御用達、そして、世界に知られる名門の老舗が点在しているのです。
ロンドンを訪れたら歴史をたどりながら、老舗の探訪を楽しみたいですね。
(トラベルライター、作家 市川 昭子)