日本の医療制度は「国民皆保険」。国民全員、必ずどこかの医療保険に加入することになっている。それによって、病気やケガをして「患者」になった時、医療費の大半を補助してもらえる。今の日本は、「世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現」していると言われる。
患者が実際に病院や薬局の窓口で支払う割合は、約37兆円にもなる国全体の医療費総額の1割程度。この割合が大きいのか小さいのかは、誰にも断言できない。ただ、国全体が火の車のように厳しい財政状況なので、1割程度の負担で良しとする今の制度がいつまで続けられるのか、疑問視している人は多いだろう。
国民皆保険の特徴は、(1)国民全員を公的医療保険で保障、(2)医療機関を自由に選べる (フリーアクセス)、(3)安い医療費で高度な医療、(4)社会保険方式を基本としつつ皆保険を維持するため公費を投入、の4点。今後も、この4つ全てを続けていけるだろうかと考えてみる。
(1)と(2)は、必要最低限の医療サービス(ナショナルミニマム)の根幹中の根幹である。(4)は、医療保険財政の仕組みとして、当面、これ以外はあり得ない。(3)もナショナルミニマムの色彩が濃いが、これには吟味が必要だ。「安い」とは、何が「安い」ということなのか。患者負担額が安いということなのか、患者負担額と医療給付を合わせた医療費総額が安いということなのか。医療費総額が安い分には越したことはないが、患者負担額だけが安いままだとなると話は違ってくる。
国民皆保険が始まって半世紀が過ぎた。
その間に医療事情は飛躍的に好転し、今では世界最高水準と言われている。だが、医療財政は暗転している。そうなると、医療を巡るナショナルミニマムの水準を引き下げない困ることになる。それは、「安い医療費」を見直すことであり、患者負担割合を引き上げることだ。
時代の変遷とともに、ナショナルミニマムも変化していくはずだ。皆、実は心の中ではわかっていることなのではないか?「安い医療費」はいつまでも続けられない、と。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川和男 Twitter@kazuo_ishikawa)