2013/08/05

名画「甘い生活」の余韻 Fontana di Trevi in Roma

誰もが知るトレヴィの泉 Fontana di Trevi は、ローマ市内にある泉の中で最も規模の大きな泉であり、バロック様式の壮麗な景観を自慢とするローマ屈指の観光ポイントで知られます。


泉は、スペイン広場やテルミニ駅、ヴェネツィア広場などのローマの主要ポイントからは徒歩圏内。また、中世の石畳の路地が四方に延びる情緒あふれる旧市街の中心地にあり、周辺にはその他の重要な観光ポイントも目白押し。近くにはホテルが軒を連ねるという最高の立地条件とロケーション良さもあり、連日多数の観光客でにぎわいます。

もちろん、映画「ローマの休日」のワンシーンにも出てきた泉ですから、老若男女、世界中から集まる観光客で連日ご覧の通り。ことに気候の良い初夏の観光シーズンには人が多くて、泉を見ることさえも出来ず、一度、にぎわいの中に身を呈すると身動きが取れないこともあるのです。それでも懲りずに、常にこのような人であふれかえっているトレヴィの泉です。

でも、なぜにここまで、また、身動きが取れないほどのにぎわいを連日見せるのかとお思いの方がいらっしゃると思います。

実は私もその一人でした。それも世界中から集まる観光客だけではなく、その三分の二以上がイタリア人なのですから、首を傾げたくもなります。

でも、それには理由があったのです。

実はイタリア人にとって、このトレヴィの泉を世界にもっとも有名にした映画は、アメリカ映画の「ローマの休日」ではなく、映像美学でカンヌ国際映画祭パルム・ドールやアカデミー賞衣裳デザイン賞など、多くの映画賞を総なめにしたフェデリコ・フェリーニ監督の代表作「甘い生活」La dolce vita(1960年制作)だからです。

それはイタリア人としてもっとも誇れる作品のひとつであり、アニタ・エクバーグと共に当時、国民的なスターだったマルチェロ・マストロヤンニが主演を務めたというのも、トレヴィの泉を愛する理由のひとつになっていたのです。

その証しとも言うべきなのでしょう、1996年にマストロヤンニが死去した折り、彼に敬意を表する意味で、トレヴィの泉が黒い布で覆われたのです。

葬儀は国葬であったことは言うまでもありませんが、このトレヴィの泉も国民と共に黒い布を付けて喪に服したのです。

「甘い生活」ラ・ドルチェ(甘い)・ヴィータ(生活)は、1950年代後半の豪奢で退廃的なローマの上流階級の生態を描いたもので、この中世の優雅な彫刻群に覆われた泉と瀟洒でリッチな雰囲気に包まれたヴィア・ベネト通りを舞台に選び、毎夜、その場限りのアバンチュールを楽しむ現代人の不毛な生き様を描いた作品です。

刹那的に快楽だけを求める一夜の歓びは人生の空しさを訴え、酔いに任せた男女の関係は、明日なき世界を描き、上流社会を舞台にして“生きる悲しみ”をリアルに描いた傑作として今なお、注目を集めるのです。

また、作品はイタリアが誇る映画の巨匠フェデリコ・フェリーニらしい粋な演出で、世界中の映画ファンを感動の渦に巻き込み、イタリア映画の華麗なる姿を見せつけもしたのです。

アニタ・エクバーグ扮する淑女が酔った勢いでドレスのままこの泉の中でマストロヤンニと絡むシーンは、今でも鮮烈に記憶にとどまっています。

ずいぶんと前に一度しか観たことのない映画ですが、なぜかこのトレヴィの泉の最後のシーンが、鮮烈に、鮮明に記憶の底にあるのです。それはフェリーニ監督のもっとも伝えたかったことが、この泉のシーンに託されていたからでしょう・・・。

古代のカエサルの意思を継いで活躍した名皇帝アウグストゥスから始まり、17世紀のやはり名教皇クレメンス12世に伝わって完成したトレヴィの泉です。

もし、彼らが映画の巨匠フェデリコ・フェリーニ監督により、世界中に感動を巻き起こした名画ドルチェ・ヴィータの最後の見せ場として選ばれたのがこの泉であることと、オードリー・ヘプバーン主演の名画「ローマの休日」の舞台になったことで、今、世界中の人々に知られる世界一有名な泉になっていることを知ったら・・・。

イタリアはやはり素敵です・・・。

(トラベルライター、作家 市川 昭子)
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