名画「ローマの休日」ゆかりのトレヴィの泉 Fontana di Trevi a Roma



ここはローマ随一の観光ポイント「トレヴィの泉」です。そして、名画「ローマの休日」にも登場するのですが、どんな場面で登場するのか覚えていますか?

思い出せない方は、映画としてはこれから本筋に入ろうとする辺り、アン王女が王宮を抜けだし、あの素敵な長い髪をショートカットにするシーンを脳裏に思い浮かべて下さい。

映画の中では、アン王女がローマの街を歩きながら見つけた床屋さんは、トレヴィの泉を前にした広場に開業しているという設定になっていましたね。

そうです。アン王女はこの泉近くを散策していた折、広場に面して建つオープンエアのように明るく開放的な床屋を見つけたのです。

その日はジェラート(アイスクリーム)をほおばるほど暑い日でしたから、風が吹き抜ける涼しげなそのお店を気に入ったアン王女は、自分の長い髪を触りながらしばらく思案にふけった後、中に入り、ハサミを持った好色っぽい男に「髪を切ってください」そう言うのです。

その話し方があまりにも上品だったので、一般の人ではないと気付いた相手ですが、そんな相手の思いには気づかず、王女は「カットしてください」そう言ったのでしたね。

でも、王女の髪は長く素敵でしたから、ますます困惑する相手。彼はどうしたら良いものかと思案しているのに、相変わらずアン王女は何ら気づかないのです。

また、自分が王女という立場ではなく、一般人として床屋の椅子に座っていることもすっかり忘れて、侍従に話すようにいつもの命令調だったりして、お互いに話が見えないその状況が可笑しく、愉快なシーンでしたね。

でも、無事にカットは終了。相手が自慢する“流行の髪型”にしたアン王女は床屋から出て、ショートカットの自分の姿をお店のウィンドーに映したりして、髪型にご満悦でしたね。そのときの王女の爽やかな表情がとても可愛く、印象的でした。

ロケはこの泉周辺で行われましたが、実は床屋は実際には存在していなかったのです。髪をカットしたりするそのシーンの撮影は、ローマ郊外のチネチッタのセットで行われたのです。

チネチッタ(Cinecittà)は、ローマ郊外にある屋外セットやスタジオ、フィルム編集設備などが備えられている大規模な撮影所で知られていますが、撮影所ではイタリア映画はもちろん、白夜や山猫、ベン・ハー、クレオパトラなどの数々の名画が撮影され、世界中にその名を知られる名門でもあります。近年では2012年に日本のテルマエ・ロマエのセットが組まれ、ここで撮影をしていますね。

でも、驚くことに撮影所は何と1930年初頭、当時イタリアの指導者だったベニート・ムッソリーニの命により建設されたのです。

当時はイタリア映画の全盛期でもありましたから納得できないことはないのですが、それにしても戦前ですし、80年以上も昔のことです。五・一五事件が起きる数年前の日本では映画鑑賞なども、増してや映画の撮影所など考えられない時代です。でも、それだけではありません。日本の映画監督の増村保造氏が学んだことで知られる“イタリア国立映画学校”も1935年に同地に設立されているのです。

古代から中世、そして、近代まで、イタリアという国の芸術に対する関心の高さに今更ながら驚き、擁護するための懐の大きさに心より感謝です。

(トラベルライター、作家 市川 昭子)