対外強硬路線を強める中国、その背景にあるものとは



尖閣諸島の領有権を主張して譲らない中国であるが、最近では「核心的利益」という表現まで用いて主張を強めている(公式には曖昧な表現にしたようだが)。この「核心的利益」という言葉は、以前中国が台湾問題に言及するときにだけに使われていた表現であったが2009年の米中共同声明に盛り込まれ、それ以降「絶対に妥協も譲歩もしない」対外強硬外交の根拠として使われているキーワードだ。つまり、尖閣諸島は中国にとって「絶対に妥協も譲歩もしない」地域ということだが、この中国の強硬路線に迷惑している国は日本だけではない。

南シナ海の島々の領有権をめぐって、ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどと中国は強硬に争っているし、最近はインドと国境付近で揉め事を起こしている。

インドと中国は1962年に国境をめぐって戦火を交えたが、80年代後半からは関係改善を図り、現在では貿易額も増えて両国首脳がお互いの国を訪問するなどしている。昨年3月には両国の外務省局長級による国境問題を協議する会合も持たれた。そういった取り組みが行われていたにも関わらず、報道によると今年4月中旬ごろからインドと中国が領有権を争っているカシミール地方のインド側実効支配地域に中国軍が侵入してテントを設営しているという。インドは抗議しているが状況は変わっていない(5月2日時点)。

日本はインドと米国も交えて定期的に外交および防衛関係者が集まってアジア太平洋地域情勢等の共通の関心事項について意見交換をしている。5月1日にはワシントンDCで四回目の協議が行われているはずだが、国境侵入問題も議題にあがったと思われる。

インドと緊密な友好関係にあるロシアも中国に困っている国の一つだ。ロシアの場合は極東地域における中国人の経済活動が活発化していることを懸念しているという報道もある。先日安倍首相がロシアを訪問したが、ロシアにとっては日本と結びつきを強めることで中国をけん制したいという思惑もあるかもしれない。

近年の中国の強硬姿勢には困ったものだが、困っているのは日本だけではない。関係各国と連携してけん制を強めていくべきというのは言うまでもない。一方で中国はどうかというと、貧富の格差の拡大や景気後退が懸念されているなかで、国民の目を外に向けさせなければ支配体制を維持していくのが難しいという追い込まれた国内事情が対外強硬路線の背景の一つにあるのかもしれない。上海総合株価指数は今年に入ってさえない動きをしているが、そういった厳しい国内事情を反映しているとも考えられる。(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。