安倍首相、鉱物資源が眠るモンゴルへ 関係強化は「綱」がキーポイント


報道によると、安倍晋三首相は今月末にもモンゴルを訪問する。モンゴルといえば横綱白鵬と日馬富士を思い浮かべるところだが、外務省の資料によると2012年7月時点でモンゴル出身力士は27名おり、角界の最大勢力の1つとのこと。外務省はモンゴル出身力士の人数まで正確に把握しているとは、職員の方は大変だなぁと思う。

さて、このモンゴルであるが中国とロシアに挟まれているため、両国との関係が非常に深い。輸出相手先は9割超が中国、輸入相手先の過半数は中国とロシアと両国に「がっぷり」だ。このためモンゴルは中国とロシアの両国のどちらにも偏らないように配慮している一方、「第三の隣国」という概念を掲げて、日本、米国等との関係強化を目指している。

ところでモンゴルといえば社会主義国じゃなかった?と思う方もいるだろう。モンゴルは1990年に複数政党制を導入して民主化を図り、92年には憲法改正によって新生「モンゴル国」となった。民主化に移行してから日本は一貫してモンゴルの最大援助供与国であり、関係も良好だ。ちなみに外務省の資料によると、2004年11月に在モンゴル日本国大使館が実施した世論調査で、「日本に親しみを感じる」と答えた回答が7割を超えたほか、「最も親しくすべき国」として第1位になっているらしい。世論調査までやっているとは外務省の仕事は本当に幅が広い。

では、モンゴルと関係を強化することで日本にどのようなメリットがあるのだろうか?安全保障上の観点で中国を取り囲むためという論調も見られるが、最大のメリットは経済面にあると思われる。モンゴルは2011年以降、実質GDP成長率が前年比10%以上を維持している経済発展の優等生国家であり、日本製品の有望な輸出先になるだろう。また、石炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源にも恵まれている。オヨー・トルゴイ銅・金鉱床は世界規模の埋蔵量が見込まれているなど、資源の調達先の一つとしても有望だろう。

安倍首相の訪問は経済関係の強化を後押しするものだ。モンゴル関連で恩恵がありそうな国内企業はインフラ関連を手掛ける企業、自動車、商社などであろう。例えば三井物産は中国の石炭メジャーである神華社と組み、世界最大級の石炭埋蔵量を誇るタバン・トルゴイ炭田の開発に入札参加するなどしている。

モンゴルとの貿易に関して筆者が注目しているのはモンゴルと日本をつなぐ「綱」、つまり輸送経路だ。モンゴルはロシアと中国としか国境を接していないため、モンゴルへの輸出入には必ずロシアか中国を経由しなければならない。現在、日本からモンゴルまでの主要輸送経路は中国の天津(新港)を経由してモンゴルの首都ウランバートルに至るのが一般的のようだ。中国がレアアースの対日輸出規制をしたことが記憶に新しいが、中国がモンゴル関連の日本企業の輸送を制限しようと思えば簡単だろう。このため中国との関係悪化の上にモンゴルとの関係強化は成り立たず、中国に大きく依存しているモンゴルもそれを望んでいないと思われる。もちろん、万が一に備えてロシアのシベリア経由の輸送経路も確保しておく必要はあるだろう。日本とモンゴルをつなぐ「綱」がどのように置かれていくのか注視していきたいところだ。(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。